家族の死を家族だけで受け止めなくてはいけない社会


実家で一人暮らししていた父が孤独死した後、自責や後悔の念があり、強い悲しみに打ちひしがれていましたが、友人達の小さな気遣いや瞑想が心を落ち着ける助けになったという如月さん。そして、日本では身近な人との死別などの深い悲しみから立ち直るためにサポートを行う「グリーフケア」の普及が遅れていることにも気づきます。

「かつての日本では大家族や地域など共同体全体で死を受け止めていました。でも、今は核家族化が進み、少ない家族だけで人の死を受け止めなくてはいけません。それだけに精神的なダメージが大きくなります。そこで、グリーフケアにも興味を持つようになりました」

如月さんがメディアプラットフォーム「note」で父の死のことを書いた時に、同じような喪失の悲しみにある人から、たくさんのコメントが書き込まれました。それだけ多くの人が同じように身近な人の死による悲しみに打ちひしがれていて、辛い思いをしているということが垣間見えます。

「今の私にできることがあるとすれば、悲しみにくれている人に『話だけでも聞くよ』と伝え、私の気持ちはいつでもあなたに向かって開いていますよ、という態度を示すこと。本を出してから、『実は私も……』と私に話をしてくる人が結構いらっしゃいます。つらい体験を書いたことで、悲しみに寄り添う役割が少しできるようになったなら良かったなと思っています」

 


自分のことだけ考える時間をスケジューリングして


如月さんの現在の目標は、マインドフルネスやヨガなどの学びを経て、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念「ウェルビーイング」の輪を広げていくこと。

「私が一方的に癒やすのではなく、心安らぐやり方を自分自身で再現できる方法をみなさんにお伝えしていきたいというのが夢。なかでも身体と心をともに整えることは特に大切だと思っていて、将来はめちゃくちゃ元気なヨガおばあちゃんになりたいですね(笑)」

如月さんが50歳からの学び直しで、新たな人生を前向きな気持ちで歩んでいるように、40〜50代の女性にはアイデンティティの再構築を勧めたいと言います。

「今ここで、これからどう生きていきたいかをしっかり考えておくと、もやもやした状態から抜けだして新しい自分になることができます。この先必要なことは何かとじっくり考える時間を作る贅沢を自分に許してほしいんです。でも、時間は、『今日のこの1時間は自分のことだけを考える!』と意識的に決めないとなかなかできません。考える時間を先にスケジューリングして、ぜひ時間を作ってみてください。ヒントは、自分が子どもの頃に何が好きだったか、何をしている時が楽しかったか、にあることが多いですよ」

父の死を経験して、自分の人生にも終わりがあることを改めてリアルに感じたという如月さん。豊かな人生を歩んでいくために、誰にでもやがて訪れる死を視野に入れつつ、今すべきことや、できることはたくさんあるということも、教えてくれています。

<書籍紹介>
『父がひとりで死んでいた 離れて暮らす親のために今できること』

著 如月サラ(日経BP)

2021年の正月が明けて間もなくのこと。
遠く離れた実家で父が孤独死していた、という連絡を著者は受けます。
警察による事情聴取、コロナ禍の中での葬儀、実家の片付け、残されたペットの世話、
さらには認知症になった母の遠距離介護まで--。

父を亡くしたショックに立ち尽くす間もなく、突如直面することになった現実をひとりで切り抜けていく日々と、心の動きをリアルにつづったエッセイ集です。

「日経xwoman ARIA」で連載中の大反響のコラムを書籍化するにあたり、エッセイに加えて"離れて暮らす親のために今できること"という観点から「見守りサービス」や「家族信託」に関する情報コラムを新たに書き下ろすなど、大幅に加筆しました。

 

如月サラ(きさらぎ・さら)
熊本県出身。エディター、エッセイスト。大学卒業後、出版社で女性誌の編集者として勤務。50歳で退職し、大学院修士課程に入学。中年期女性のアイデンティティについて研究しながら執筆活動を開始。6匹の猫たちと東京暮らし。

 

写真/如月サラさん提供
取材・文/吉川明子
構成/川端里恵



第1回「「父がひとりで死んでいた」離れて暮らす親の孤独死。やっておけば良かったと思うこと」>>