義母が神戸を出て別居した驚きの理由とは?


「もしもし? 涼子さん? 私よ、歩美」

「ああ……お、お義姉さん!? ご無沙汰しています!」

涼子は意外すぎる相手からの電話に、声が半分裏返る。晃司の姉、歩美は神戸に住んでいて、直接会ったのは結婚してから10回にも満たない。晃司や早苗とは少しタイプが違い、ちゃきちゃきしている。明るい笑顔が頭に浮かんだ。

「今大丈夫? お休みの日にごめんなさいね?」

「あ、いえ、今晃司さんも子供たちで外出していて……一人でうちにいるので、大丈夫です」

「そっか、良かった。じゃあ手短に……母のことなんだけど、東京で迷惑をかけてるんじゃないかと心配で。『晃司たちがお誕生日旅行に連れてってくれるの』なんて自慢のメールが来たと思ったら、急にこの1週間音沙汰がなくてね」

歩美の言葉に、涼子は思わず言葉を詰まらせた。

誕生日旅行は、晃司が「連れていく」わけじゃない。早苗の発案がなければ発想もなかったし、お金だって早苗は自分のぶんは出す、と言っていた。そこを微妙に言い換えて、娘に伝えたということが、涼子をハッとさせた。

 

「今日、お母さん誕生日だから、気になって電話してみたんだけど出なくてね。でも涼子さんがおうちにいるってことは……やっぱり旅行なんて嘘だったのね。

ねえ、涼子さん、急に近くに引っ越して母との距離感に困ってるんじゃない? なんだか心配になっちゃって。お母さんもねえ、お父さんへの当てつけのつもりなのよ」

「当てつけ? お義父さんとお義母さん、何かあったんですか?」

 

涼子は、歩美が声をひそめたのと反対に、思わず声のトーンが跳ね上げた。

「え? ああ、やっぱりお母さんから聞いてない? 実はね、お父さん、去年胆石で入院したでしょ? あの時、なんと浮気相手との旅行先から搬送されたのよ……」

「えええ!? あ、あの堅物お義父さんが!? 旅行先から、って……そんな、そんな深い仲、ってことですか!?」

「そうなのよ、まあどうでもいいような話なんだけど、二人で6万円もするような温泉宿でね。そこらへんのホテル、とかだったら何となく救いもあるけど、お母さんが連れてってもらったこともないような宿で、妻からしたらやりきれないわよね。同じ会社の未亡人らしいんだけど。55歳で、結構な長い付き合いだったらしいのよ……。まったくねえ、お父さんも何考えてるのかと思うわよ。彼女は友達だなんて必死で言い訳してたけど、夜運び込まれた時点で真っ黒。お母さん、かえって自分とさほど歳が変わらないっていうのも嫌だったんだと思う。若さにふらふらしたのね、とも言えないわけだし。それっきり、二人の間には隙間風ビュービューよ」

温泉宿……1泊1人3万円……パズルのピースが一つずつハマっていくような感覚があった。

「お母さんも、縁もゆかりもない神戸に、お父さんの転勤ってだけで連れて来られて、いつの間にか東京で過ごしたより長く暮らして、淋しいこともあったと思うけども長年頑張ったのよ。それなのに、定年間際にその仕打ちでしょう。同じ女としても、まあ腹に据えかねて、別居するっていうのも分かるような気がするの」

「えええ!? お義父さんとお義母さんて、計画的な別居だったんですか!?」