地味すぎる「作業療法」と体育会系の「理学療法」


この日、ランチの後は「作業療法」と「理学療法」が1時間ずつ組まれていました。「作業」は、生活に必要な動作や、社会復帰のためのスキルを取り戻していく、というもの。食事やトイレ、家事といった日常の動作ができるようにリハビリをしていきます。

作業療法の専門ルームでは、ラジオ体操をしたり、備え付けのキッチンで料理をしたり、木工室で創作に励んだり、パソコンを打ったりと、さまざまなリハビリが行われています。

私の場合は、とにかく右手を動かすことが先決。くる日もくる日も地味なリハビリが続きました。

最初は腕が少し曲がる程度で、肩も手首も指も「し〜ん」とした状態。脳からの指令が、まったく届かなくなってしまっているようです。

作業療法士さんにマッサージをしてもらったら、手に電気を流して刺激し、お手玉を机の上から前に落とす練習を反復して行います。見渡せば、「お手玉落とし仲間」がたくさん! なかには、山と積まれたお手玉を前に、ガックリ肩を落としているおばさまもいます。

でも、おばさまは左手でお手玉を落としています……! 脳が損傷を受けると、右側なら左半身、左側なら右半身に影響が現れます。私は左脳をやられている「右マヒ患者」。なので、右手が問題なく動く方々が、心底うらやましいのでした。

かつてこの病院に入院していた「先輩」が作ってくれたという、マヒ腕用のクッション。私はワンちゃん柄だったけれど、おばさまにはエレガントな花柄、おじさまにはシックなチェック柄などが人気。

続いてのリハビリは「理学療法」です。これは、「リハビリ」と聞いて多くの人が思い浮かべる内容。座る、立つ、歩くなどの基本動作の回復や維持をはかるというものです。

 

理学療法の部屋にはマットやバランスボール、歩行用の手すりやマッサージベッドが並び、まるでトレーニングジムのよう。あくまで私の感覚ですが体育会系のノリの理学療法士が多く、部屋に入るたびに「よしっ、今日も頑張るぞ!」とさわやかな気分になれます。

私の担当者は、ショートカットが似合う20代の女性。いつもクールで表情が読みにくいタイプながら、私の回復が見られるたびに「すっごく良くなってる〜」と、テンション低くはしゃいでくれるのでした。

右脚の状態はというと、少しずつ力が入ってきており、つかまりながらなら立ったり座ったりできる状態。脚を支える装具をつけてもらい、杖をついて歩く練習を繰り返します。

 

よく「リハビリって、大変でしょう」と言われるけれど、この理学療法のリハビリは「大変」というよりも「楽しみ」。とくに繊細な動きが必要とされるためか、遅々として回復が進まない手のリハビリと違って、日に日に回復がわかる理学療法のリハビリは、毎回いろんな進歩が感じられて楽しいのです。

しかし、倒れるまでは、「普通に歩くには」「腕ってどうやって動かすんだっけ」なんて、考えたことすらなかった……。

まだまだ、私のリハビリ道は始まったばかりなのでした。


>>次回は、入院中のリアルな生活をレポートします。
 


文/萩原はるな
写真/萩原はるな、Shutterstock
構成/宮島麻衣
 

 

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