自分らしい生活を取り戻すための、コロナ禍ぼっちリハ対策
リハビリは大きく3段階あります。
1・救急車で運ばれた急性期病院でのリハビリ
寝たきりの期間が長くなると、体力も筋肉も落ちていくばかり。私は意識が回復すると、すぐに立ったり座ったり、身体機能の低下を防ぐためのエクササイズがはじまりました。同時に、脳障害の程度を調べる簡易検査も受けました。
2・回復期のリハビリ
病状が安定次第、リハビリテーション病院に移ります。急性期病院側からいくつか転院先を紹介されますが、当時の私は自己判断できない状態で、家族に判断を任せました。現在は、まさかを想定し、HPなどで各病院の特徴(どんな障害に強いのか)などの情報収集しています。退院後に近所の高齢者と話すと「あそこだけは絶対ダメよ」といったリアルな情報も入ってくるようになりました。
3・生活期のリハビリ
リハビリ病院では、退院に備えて、自宅のリフォームの検討や、復職にあたって企業側への留意事項の伝達、さらに必要であれば生活保護申請といった経済面まで、幅広い相談にのってくれる窓口があります。退院後、自分らしい生活を取り戻すには、さまざま角度からのサポートが必要です。自分自身も病気の再発防止のために、服薬や生活習慣改善などを忘れてはいけません。つい忘れてしまいますが……。
自分らしく生活していくためには、いろいろな人の力を借りなければなりません。でも、私のようなアラフィフは、高齢者向けの介護サービスが受けられません。もちろん40歳以上65歳未満でも、老化が原因とされる「特定疾病」で支援や介護が必要であると認定されれば介護サービスを利用できますが、私はそこに該当しない弱フレイルの状態と言えます。フレイルとは「要介護」と「健康」の中間の状態を指し、この分岐点での対応でどっちに転ぶかが別れる重要なポイントでもあります。
「フレイルの原因はいろいろです。体力低下で歩けない、動けない。メンタルが落ち込みやる気がない。そして社会的な問題として身近に友人がいない。居場所がないなど。フレイル予防には心身のケアに加え、社会的な交流の場も必要になります。イギリスでは2018年に孤独解消対策に国が取り組みをはじめています。ですが孤立と孤独は違います。孤独=ソリチュードは主観的な状態で、孤独を愛する人もいます。孤立=ロンリネスを解消する取り組みが必要です。
日本ではお住いの近くに地域包括支援センターがあり、相談窓口にかけこめば、社会福祉士、主任ケアマネージャー、保健師等が相談にのってくれます」(大場さん)
孤独を愛する私でも、蘇り以降は孤立を恐れるようになりました。コロナパンデミックになり自宅での「ぼっち」が加速した際はオンラン飲み会や電話などで友人と交流し、加えてTwitterでのちょっとした励ましにかなり救われました。何よりにゃんずの存在が心の支えになりました。それでもどうしても辛い時にはリハビリ病院の臨床心理士さんにメールで相談。コロナ禍で、悩みや不安を一人で抱えこまずSOSを出すことが大事だと痛感しました。フレイル予防はもちろん次のまさかに備えて、近隣地域のサークルなどに参加して人間関係を構築するようになったのは大きな変化です。
病院と自宅じゃ大違い! リハビリは続くよ、どこまでも
私の入院時はビフォーコロナで、面会が可能で、リハビリや食堂での食事にも家族やパートナーの付き添いがOK。いつもに院内はぎわっている印象でした。しかしコロナの影響で、現在も家族のリハビリ同伴も面会も外出も外泊も全て禁止。外来も閉じたまま。それでも入院生活でリハビリを続けているみなさんは、スマホで家族とテレビ電話したり、入院患者さん同士で交流したりと、力強く乗り越えていると言います。
けれど退院後に自宅でリハビリを続けるのは、私自身はなかなか難しかったというのが本音。アドバイスを大場さんに聞いてみました。
「病院は管理された特異的な環境です。そこから自宅に戻って、再発予防のために主体的にリハビリに取り組むのは理想ですが、簡単ではありません。栄養バランスを意識した食事をして、薬を飲み、毎日エクササイズをするといった習慣を身に付けるには1年ぐらいかかります。ひとりで焦らず、かかりつけ医、支援者や家族などを頼りながら、自己管理できるように、暮らしを徐々に整えていく意識でいいと思います」(大場さん)
退院して1、2ヵ月は日常生活動作(ADL)が低下は見られることがあると大場さんは指摘します。私も退院後、サポートがない状況になり、「自分はこんなにできないんだ」と唖然とし怯えました。病院なら理学療法士さんがストレッチをしてくれ、体が動きやすくなった状態で、段差の練習をしていました。でも、自宅だと寝起きで30分後に家を出なきゃいけない訳です。それを自覚してからは、出かける日は朝早めに起きてストレッチするようになりました。
「リハビリ病院のスタッフは退院前に患者さんと一緒にご自宅に伺っていろんな話し合いをして環境を整えますが、退院直後からは地域や介護保険にバトンタッチします。そうスグにうまくいきませんので、落ち着くまではトライアドエラー。我々もそこのフォローアップについてもっとサポートできる仕組みを考えていかなければと思います」
リハビリはソフトランディング! 焦りは禁物。
「復職は障害の程度で変わってきますが、職業準備性ピラミッドが参考になります。社会復職を目指すにもまずは健康管理が大事。その上に、日常で身の回りのことをできる能力、コミュニケーション能力、職業スキルの能力が積みあがっていきます。とにかく、ベースの健康管理が最重要。
障害のある方が感じるバリアを取り除いたり軽減したりすり合わせて環境や状態を整えていくことを「合理的配慮」と呼びます。それがあれば徐々に社会復帰していけるのですが、病気や障害についての自己理解と他者理解が必要です」(大場さん)
ポイントは
・自分の障害を理解して相手に伝えられる
・自分の不得意なところを補える方法を考えていく
加えて気を付けるのは、体がついていかないのにオーバーワークしてしまうこと。無理して我慢して、心も体も疲弊して仕事を辞めてしまう方が多いそう。これは障害のあるなしに関係なく言えるのではないでしょうか。「無理しちゃだめ」、「頑張りすぎちゃだめ」。元通りにやりたいとプライドもあるかもしれませんが焦ってもろくなことがありません。健康管理は人間の活動の基礎です。忘れずに大事にしていきましょう。
【漫画】「健診受けてるから大丈夫」が命取りに...突然の心肺停止から搬送されてどうなった
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『山手線で心肺停止! アラフィフ医療ライターが伝える予兆から社会復帰までのすべて』
熊本美加・著 上野りゅうじん・漫画 鈴木健之・監修 1320円 講談社
健診で分からない「隠れ心臓病」に要注意。日本では7分に1人が心臓突然死で亡くなっているという現実がある。
元気でバリバリ働いていたアラフィフの医療ライターがある朝突然、山手線で心肺停止に。打ち合わせに向かう車内で倒れ、浜松町駅で駅員によるAED、心臓マッサージを受け、搬送された病院で人工心臓につながれた。
奇跡的に一命を取りとめたが、高次脳機能障害により注意力、記憶力、感情のコントロールに問題が生じ、リハビリ病院へ。生死を分けたのは何だったのか。そのとき、仕事は? 家族は? そして飼い猫は?
Twitterで何度もバズった「ウェブマガジンミモレ」のルポをベースに、予兆リストや胸の痛みの種類、生死を分ける心臓マッサージなど、著者が読者の皆さんに伝えたいことを新たに執筆、再構成した。実用書でありながら、『女はいつまでおんなですか? 莉子の結論』『ママのうつ病をなめてたら、死にそうになりました』で知られる上野りゅうじんがマンガを担当。
熊本 美加
東京生まれ・札幌育ち。医療ライター、性の健康カウンセラー。大学卒業後、広告制作会社などを経てフリーライターに。更年期ウイメンズ&メンズヘルス、性感染症予防・啓発、性の健康についての記事を執筆。2019年に電車内で心肺停止で倒れ救急搬送され蘇る体験以後、救命救急、高次脳機能障害、リハビリについても情報発信中。
上野りゅうじん
2017年「うちのへそ曲がり!!」でデビュー。ママスタセレクト漫画・記事挿絵などを担当。『オカン DAYS』(講談社)、『ママのうつ病をなめてたら死にそうになりました』(ぶんか社)が発売中。漫画で参加した『マンガでわかるポイント投資 100ポイントあったら「株」を買いなさい!』(安恒理著、講談社)、『女はいつまで女ですか? 莉子の結論』(KADOKAWA)がある。
漫画/上野りゅうじん
監修/鈴木健之(東京都済生会中央病院)、
関口由紀(女性医療クリニックLUNAグループ理事長)
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監修・大場秀樹
東京都リハビリテーション病院 作業療法科 主査、東京都作業療法士会、自動車運転と移動支援対策委員会委員長、日本安全運転医療学会副理事長