20年で3000万円以上!?セレブ子育ての代償


「それは……何も、私だってこうなった以上、結婚するのは仕方ないとは思っているのよ。もちろん子どもが光輝の子だっていう大前提があるけれど。それにしてもね、あの二人、どうしたってバックグラウンドが違いすぎる。おまけにそれに気づいてもいないし。それじゃこの後、いろんな決断をするたびにギクシャクするに違いないわ。

それに……それにね、私、光輝をそりゃあ一生懸命育てたのよ。お金だって手間だって、人一倍かけてるの。10年以上、毎日習い事や塾に車で送迎したし、お金だって湯水のごとくよ。留学だってさせたしね、教育費は3000万円はかかってるはず。言いたくないけど御三家から東大よ、本店の出世頭よ。それなのに彼女、あまりにも分かってない、光輝と結婚する有り難みなんて一切感じてないのよ!」

亜希は早穂子の叫びに、有り難みねえ、と吹き出した。

「それが本音だよね。早穂子、本当に愛情も時間も注いでたもんね。

まあ、だめなら離婚すりゃいいのよ、みんながみんな若い時に正しい判断なんて下せるわけないなんだもの。自分が信じた道を進んで、間違えたら潔く修正。誰だって人生は出たとこ勝負よ、本当は。早穂子だってあんなにお見合いを勧められたのに、みーんな断ってさ、反対されても陽一さんと職場結婚でしょ。そのあと正直、しなくてもいい苦労もしたでしょ? でもその結果光輝を授かったわけだしね」

ぐうの音も出ない早穂子は、過去の何もかも知っている幼馴染に八つ当たりをしたいような気分になる。早穂子が陽一と結婚する時、親族の誰一人としていい顔はしなかった。陽一は勤め先こそ一流企業だったが、実家や一族の財力を見れば早穂子の方とは家格が違う。それを押し切ったのは早穂子だったし、その時の唯一の味方はこの二人だった。

 

「わかってるってば。私も多少苦労したからこそわかるのよ。ある程度同じような環境で育った者同士の方がスムーズなのは事実だし、そうでないならば擦り合わせる意識が必要でしょ? でも、その覚悟があの二人からちっとも見えないの。それを見せてもらわないと、反対するしかないじゃないの」

早穂子が口を尖らすと同時に、スマホが振動し始めた。見慣れない番号。045で始まっている、確か横浜の市外局番だ。

 

早穂子は何かを考えるよりも早く、電話に出ていた。

「内藤早穂子さんの携帯電話でよろしいでしょうか? こちら、横浜市◯◯病院ですが、患者さんに連絡先を聞いて電話しています」

「患者さん?」

聞きなれない単語に、早穂子の胸は早鐘のように打ち始めていた。