乳製品の摂取と心臓の病気の関連性。チーズは食べれば食べるほどよい?【医師の解説】


山田:この研究は、2000人ほどの参加者を、乳製品を多く摂取している人、乳製品をあまり摂取していない人にわけ、心臓の病気がどちらに多く発生するのかを見た「コホート研究」です。治療薬やワクチンなどでよく見られる研究とはデザインが違い、因果関係には言及できないタイプの研究です。

 

編集:なるほど。

山田:ですが、この研究が面白いのは、牛乳だけでなく、バターやチーズもそれぞれ別に観察したところです。その結果、「チーズの摂取量が増えれば増えるほど、心臓や血管の病気のリスクが減る」という関連性が観察されました。

編集:それは驚きです。

山田:一方で、バターや牛乳は、一定の摂取量までは病気のリスクが下がり、その後増加するというU字型の関連性が観察されました。U字型の関連性は、たとえば睡眠や運動など、何事も過度にやるのはよくない、ということを言われる際にも出てきます。

ですが、チーズにおいては、なぜかずっと病気のリスクが下がり続けたのです。

編集:チーズを食べれば食べるほど心臓の病気のリスクが下がる、と考えたいところですが、そうではないんですよね。

山田:おっしゃる通りです。たとえば、チーズをたくさん食べる人ほどワインを飲む習慣があり、実はワインが血管を守ってくれていた、ということかもしれません。また、チーズを食べる人ほど運動習慣が多く、実はその運動習慣が心臓を守ってくれていた、ということも考えられます。このようなタイプの研究では、チーズの摂取と心臓の病気のリスク低下の間に、何か他の要因が挟まっている可能性がありえるのです。

編集:チーズをたくさん食べること自体が直接心臓病のリスクを下げる、とは言えなくても、「関連性がある」というだけで面白い研究ですよね。

山田:このようなコホート研究をまとめた、「メタ分析」と呼ばれる研究もあります。その中には、「牛乳摂取と心血管のリスクの間に関連性は見られなかった」と報告している大きな研究もあります。

つまり、「乳製品は心臓によいか悪いか」というのは、実は、結論が出ていないのです。

編集:はっきりと断言できない、ということなのですね。

山田:そうですね。逆にこれだけわかっていないことも多い中で、ご紹介したような関連性を示す研究の蓄積から、各国で、それぞれの栄養素の摂取量の目安を定めているのも事実です。たとえば牛乳なども、多くの国では、一日500cc程度飲む、ということが推奨されています。

このような推奨がある程度各国で定められていることから、「分かっていないのであれば何でも適当でいい」わけでもなさそうだともお分かりいただけるのではないでしょうか。食事は楽しく、しかし適量をバランスよく食べることが大切なのだと思います。

編集:そうですね。美味しいと思うものを、バランスよく食べたいな、と思います。乳製品への疑問や混乱が、解消されました。ありがとうございました!
 

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写真/shutterstock
構成/新里百合子
 

 


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