辛い過去を何度も乗り越えた今の幸せ


カンヌのイベントの顔となって壇上で語る時のクールな印象とは違い、自身のキャリアについて率直な想いを語るルーシーさんに、キャリアと密接するプライベートな話も聞いてみることに。すると、そもそもエンターテイメント業界で働くようになったきっかけに家族の存在がありました。

「国際的なテレビ局でセールスマネージャーをしていた姉の影響が大きかった」と話し始めるルーシーさん。

「イギリスで生まれて育ち、7歳の時には母が他界しました。苦労した子ども時代を過ごしましたが、親代わりになってくれた姉を慕い続けています。そんな姉を通じて、テレビ局の方とお会いしているうちに、いつしかこの業界で働きたいと思うようになりました。だから実はカンヌはずっと前から、私にとって仕事の夢を叶える場所でもあったんですよ」

そんな憧れのカンヌに縁を感じてイギリスを離れ、フランスで留学する機会を作るなか、人生最大の出会いを果たします。

「素敵なフランス人のミュージシャンと出会って。それが今の夫。私の仕事を理解し続けてくれる良きパートナーです」

ただし、30代半ばの時に試練も訪れます。

「家族を増やすことを考え始めたのですが、なかなか子どもに恵まれませんでした。8年もの間、不妊治療して、流産も経験して。本当に辛い時期を過ごしましたが、ようやく授かり、息子は今もう11歳です。柔軟に対応してくれる夫のおかげで、仕事と子育ての両立もできています。息子には自分が子どもの頃に経験できなかった国際感覚を早くから身につけてもらいたいと思って、海外のいろいろな場所に連れて行ったりしています。そんな今が幸せ。時間がかかっても私にとっての幸せを掴むことができて本当に良かったと思います」
 

働き続けるのが私という人間

 

辛い過去を告白した後に「今が幸せだ」と迷いなく言い切るルーシーさんに、仕事を続けていく上での人間関係の築き方も聞くと、「仕事とプライベートを切り離さないのが私流」と、これまた潔い答えです。

「パリやカンヌ、世界中で仕事を通じて出会う方々と一緒に仕事をし、強い絆を結んでいくうちに、互いに素晴らしい友人にもなっていくという感じです。敢えて仕事とプライベートを分けないと、すべてが混ざり合っていく。持論ですが、だから自分がやりたい仕事をし続けることができるのではないかと思うのです」

仕事に子育てに、自分のための時間。すべてを大事にしながら走り続けることは決して容易なことではありませんが、自身に言い聞かせるように「仕事を続けていくのが私の人生です」と話す言葉も印象的でした。

「エンターテイメント業界は私が望んだ場所で、しかもカンヌと縁がある今の仕事をし続けたい。少なくともあと10年は続けていくことを目標にしています。夢だった仕事に情熱を注ぐことができるから、続けていきたい。考えてみれば、仕事を休んだのは産休の時の数週間だけ。それ以外はずっと働き続けています。働き続けるのが私という人間なのです。仕事を愛さないわけにはいきません。夢の仕事に就けてラッキーですからね」

日本とは全く文化が異なる場所で生まれ育ち、世界のエンターテイメント業界の第一線で活躍する女性の人生であっても、働き、生きる上で共感できることはあります。生き抜く強さのヒントになれば。そんな想いでルーシーさんも語ってくれたからかもしれません。
 


取材・文/長谷川朋子
構成/山崎 恵
 

 
 
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