「これまで通りでいい人」と「独自性ややる気が求められる人」


たとえば、こう考えてみるのはどうでしょう。
「職場に女性が増えたら、自分のものの見方は変わるかな」
「優秀な女性が少ないのは、自分の働き方に問題があるのかもしれない」

いや別に自分は変わらないし、問題があるのは女性の働き方でしょと思った人は、DE&Iのお荷物なので定年まで会社にいられないかもしれません。もしもあなたが多様性に乏しい側で、色んな珍しい人たちを受け入れる側ならば、変化の主体はあなたです。あなたが変わらないとDE&Iは実現できません。変化は持ち込まれるものではなく、発生するものだからです。あなたの身の上に。

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男性ばかりの職場で女性を3割以上に増やせば、従来の硬直した働き方や価値観を変えられるかもしれません。同時に、少数派の中にも多様性があることを示せます。女性といっても色んな人がいますから。一括りにできないなあ、めんどくさいなあ、と元からいた人たちが頭を抱えることに価値があります。

 

経済学者でジェンダー研究者の大沢真理さんは、1986年に施行された男女雇用機会均等法を「テーラーメイド(紳士仕立て)の法律」と呼んだそうです。これでは、男性用に仕立てた服に合わせられる女性しか、労働市場に参入できないと。私も若い頃は、平等とは男性と同じように働くことだと思っていました。でも、それは平等ではなく同化だし、名誉男性が増えるだけだと気づいてやめました。

テーラーメイドの働き方は、今も大きくは変わっていません。女性は、女性ならではの感性や視点を求められたり(消えよ!「ならでは」幻想)、マミートラックに乗せられたり、やる気出して管理職を目指せとか言われたりします。素敵なロールモデルよりも、ほしいのは、今の自分の事情に合った選択肢。会議で一人ぼっちになることもなく、性別でなめられることもなく、家族が増えようが子供が発熱しようがこれまでのやり方を変えずにいればよかった人たちには、そんな女性の困惑や不安はわからないでしょう。先述のように、目を向けるべきは元からあるもの、多数派の人たち。管理職をやりたがらない女性ではなく、女性に不人気な管理職をどうにかするべきなのです。何しろひと昔もふた昔も前のテーラーメイドなのですから。

知人の社会起業家が、一人ひとりの力が発揮される社会づくりには、多様性と公正さと包摂性に加えて、belonging(ビロンギング:集団への心地良い帰属意識)を高めることが大事なんですよと教えてくれました。マジョリティの側が「成長のためには多様性が大事だよねー、制度を作ってマイノリティを包摂したから、これでよし!」と思うだけではダメで、包摂された側の少数者や非主流派の人たちが、本当にここは自分の居場所だと実感でき、働くことに生きがいを感じてこそ成果が上がるのだと。

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ビロンギングって、仲間に入れてもらえたときじゃなく、仲間ができたときに感じるものだと思います。元からいる人たちに変化が起きるからこそ、生まれるものです。単にメンバーが増えるのではなく、全体が新しい関係で結び直されるのですね。