そもそもの前提がジョブ型の雇用システムになれば、勤続年数や正社員歴に関係なく、どんなスキルを持っているかや実績が重視されます。メンバーシップ型の雇用システムに参入できなかった人が、実力で勝負できない、履歴書や職務経歴書といった外枠のみで評価されるということもなくなり、雇用の風通しもよくなる、ということにつながりそうです。
 
諸外国でジョブ型がメインの企業では、みんなが非正規で働いているようなものなので、“コースから外れる”概念自体がないわけです。リスキリングすれば、またそのスキルに見合った仕事に就くことができます。日本でもそうなっていけば、キャリア権――自分の能力に応じて仕事を選択する権利も、職業選択の自由も保障されると思います」(下村さん)
 

「普通」の道がままならない女性たちに伝えたいこと

 

「コースから外れる」という忌むべき概念において、下村さんは次のような話もしてくださいました。そもそもライフステージの変化によって「普通」が通用しづらい、女性のキャリア意識についてです。

 

「働く男性と働く女性がいた時に、キャリア意識が高いのは圧倒的に働く女性なんです。それは、女性の方が“キャリアが分断されている”から。結婚や出産でキャリアが中断せざるを得なかったり、非正規に追いやられたりしながらも、家事と育児、さらに仕事までうまく回していかないといけないケースがまだまだ多い。そのため、自分が働くことの意味をその都度考えなければなりません。男性の場合は、正社員になってしまえば、メンバーシップ型の雇用に守られながら継続的に働くことができてしまいます。

もちろん、あえて男性と言い切る必要もないのですが、メンバーシップ型に守られて働く人よりも分断されたキャリアの人の方が意識は高く、“普通”がまかり通りづらい女性たちは、よりその傾向にあるといえると思います」(下村さん)

キャリアが分断された人は、その裏で介護や育児、さらには失業をしていたけれど自己研鑽のために行動していたなど、履歴書には書けない経験を積んでいることも多いのではないでしょうか。でも、そこは企業の採用担当には評価してもらえず、職歴、もっといえば正社員歴だけが見られてしまう。時として、非正規は職歴ですらない。そう言われて自信をなくしてしまうこともあります。その点について、下村さんはこのような言葉を伝えます。
 
「キャリアは本来、必ずしも働くことだけを指すわけではなく、家庭生活や地域活動なども全て含めてキャリアなんです。メンバーシップ型、ジョブ型と分ける以前に、“キャリアとは生活全体のことである”ということは、私が強調しておきたいことです」(下村さん)
 

インタビュー後編『転職エージェントに一蹴された人たちへ。転職を考えたらまず利用してほしいハロワ以外の「公的機関」とは?【下村英雄さん】』は5⽉30⽇公開予定です。
 

『社会正義のキャリア支援: 個人の支援から個を取り巻く社会に広がる支援へ』
著者:下村英雄 図書文化社 2970円(税込)

長期失業、格差、貧困、外国人、性的少数者……社会の縁辺(えんぺん)で苦しむ人々の問題解決の鍵を握るのが、社会正義=社会的公平性を実現するキャリア支援です。世界に広がる社会正義のキャリア支援、その理論解説から実践まで教える本書。キャリアアドバイザーやキャリアカウンセラーなどに携わる人だけでなく、高校生や大学生でも読めるよう、ですます調でまとめられた本書は、キャリアに対して不安を抱く人すべてにヒントを授けてくれる一冊です。


イラスト/Shutterstock
取材・文/ヒオカ
構成/金澤英恵