厳しい現実で見失いがちな「職業選択の自由」を取り戻す

 

『社会正義のキャリア支援:個人の支援から個を取り巻く社会に広がる支援へ』の中では、「キャリア権」という概念が出てきます。法政大学名誉教授である諏訪康雄さんが提唱したもので、諏訪さんの著書『雇用政策とキャリア権―キャリア法学への模索』(弘文堂)では、「個人の発意により、その能力、適性、意欲をもっともよく体現できる職業が選択できる可能性を認める」、「キャリア権は職業をめぐる自己実現の権利そのものである」と説明されています。

誰でも職業選択の自由があり、仕事によって自己実現をする、自分の本来持っている能力が最大限活かされ、意欲が湧く仕事を求めることが、「権利」として認められている、ということなのです。

 

――この「キャリア権」は、いち労働者としてすごく重要なものだと思いました。一方でなかなか一般には認知されていないようにも感じます。

下村 キャリアコンサルタントなら、キャリア権について知っているはずです。キャリア権で言っていることそのものは、そんなに難しいことではなく、学校で習う職業選択の自由の延長線上にあるもの。

みんな本来好きなように仕事を選んで、好きなように仕事に就いていい。そのことは小6から習っているはずですが、現実の社会とぶつかった時に、その現実が厳しすぎて、本来あるはずの職業選択の自由がなかなか実現できないんですね。

――ハイクラスでキャリアやスキルもあって労働市場で有利な人ほど、自己実現やキャリアを追求する権利があるように思われてしまっていると感じます。子どもの頃の教育が知らず知らずに上書きされていって、マイノリティだったり、一度コースアウトした人たちは、「職業選択の自由を求めるなんて身のほど知らずだ」みたいな刷り込みや、社会的な圧力がありますよね。

下村 特に、上位階層(アッパー)と下位階層(ローワー)に分けたときに、アッパーは職業選択の自由を実現しやすい。努力すればするだけ報われる層が一定数いる。片やそうではないローワーの人たちには、職業選択の自由やキャリア権を「保障する」必要があります。そのために必要なのが、キャリア支援なんです。欧州では、人にはキャリア支援を受ける権利がある、という言い方をすることもあります。