【自己実現について】余裕があるときだけできたらいい


現代人は仕事や勉学を通して「自己実現」することが人生の最重要事項と捉えがちですが、戦争を経験した中村さんに言わせると、そもそも「何かを通じて自己を実現する」という感覚がないのだとか。一方、現在50代の奥田さんは、20~40代は自己実現感を常に追い求めていたものの50歳を過ぎたあたりからその感覚が薄まったとのこと。二人は、現代人の心を縛りつけている「自己実現」という言葉と、人生との関係について語り合いました。

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奥田 きっと、私の世代くらいから、仕事はお金を稼ぐためだけじゃなくて、自分を活かすため、輝かせるためにするものだっていう刷り込みがされてきたんですよ。今の若い人は、学生時代から将来のキャリアプランをイメージさせられていますから。だから社会に出て、仕事が自分の理想と違っていたり、計画通りにいかないと、悩んだり不安になったりしてしまうし、他者からも自分の欲しい評価をもらえないと、うつ的になってしまうんです。

中村 わあ、大変やなあ。そんな小難しいことを四六時中考えていたら、それこそ病気になってしまいそうや。会社は他人が作ったお金儲けのための、ただの箱。そこはあくまでも他人の箱庭なんやから、自分の思うような役割に就けなくても、気にせんでええのになあ。他人が輝こうが、出世しようが自分の食い扶持が稼げればええやないの。仕事をする一番の目的は、自分や家族を食べさせるためでしょ。

 

奥田 先生とお付き合いするようになって、だんだん私もそう考えられるようになりました。特に30歳を過ぎてから夫の仕事の関係で東京に来て、夫の給料が下がったり、子どもが二人できたりして、自分が生活を支える立場になってからは、仕事をする一番の目的は食べるためだって、どんどん吹っ切れていきましたね。まずは家族の食い扶持を稼げていたら、それでいいし十分だ、自分に余裕があるときだけ、自己実現的なことができたらいいよね、という感じです。

中村 それはなによりやったね。