仕事以外に、好きなことをいっぱい作るのは大事だと思う


ーー映画『あのこは貴族』(2020年/岨手由貴子監督)の上流階級のお嬢様から今回の有希まで、門脇さんは演じる役柄の振り幅が非常に大きいですが、どうやって演じているのでしょうか?

多分役者さんって、台本に書いてあることを喋るので、台詞の柄が悪くなれば人物の柄が悪くなるし、品が良い台詞だったら品の良い人に見えるのだと思います。気持ちをすごく変えているかと言われたら、あまり意識していないかもしれないです。ただ、バレエをやっていたので肉体先行型ではありますね。姿勢を良くして、手をきちっと揃えるだけで気持ちって変わってくるじゃないですか。あと、衣装とメイクでも、気持ちは自然に変わります。部屋に帰って部屋着になると、リラックスして言動が変わるのと一緒です。

ーー有希も部屋着と外出着にだいぶ違いがありましたね。

服装の差は絶対につけたかったです。出かける理由が理由なので、そう見えるラインを丁寧に探りました。特に露出度や色味はかなり話し合いました。最終的に監督が選んだワンピースと、赤いネイルと口紅は、私が思っていた以上にそういう目的のための装いでした。

ーー「台本に書いてあることを喋っているだけ」というところでお聞きしたいのが、有希が男性に向けて放つ「水の匂い」「鉄と火の匂い」という台詞についてです。あのナチュラルではない台詞に体重を乗せるのは難しかったのではないかなと思いました。

あれは、言うだけでインパクトがある台詞だから、浮かないように気をつけました。意味付けしない方がいいと思ったので、あえて何も考えずに喋ってます。

ーーアプローチの方法は、俳優さんによって千差万別なんでしょうね。

本当にそれぞれだと思います。私はどの作品でも共通して、役作りはしないんです。「この人はこういうキャラクターである」と決めないようにしているし、「今のシーン、ちょっとテンション高すぎちゃったかな。この役っぽくないかも」とは思わないようにしています。人間って、らしくないくらいテンションが高くなることもあるので、それで逆に役の幅が広がればいいなという考え方です。

「こういう人」と決めつけすぎると、その枠から出た演技ができなくなるので、そこはふわっとさせておく。個人的に、そういうお芝居の方が見ていても好きなので。特に有希みたいな役は今までにもたくさん描かれてきたので、キャラクター化や記号化をしすぎるとリアリティがなくなってしまうと思いました。

ーー陰のある役を演じても、門脇さん自身が役に飲み込まれず、消費されない理由がわかったような気がします。

ありがとうございます。あと多分、そんなに真面目じゃないんだと思います(笑)。仕事以外に、好きなことをいっぱい作るのは大事だと思います。大変なシーンがあって心が削れてしまうようなことがあったとしても、ロケ地の植物を見て心が楽しくなったりするので。30歳になってようやく、好きなことをたくさん作るとその分楽しくなるんだなって思うようになりました。

 

門脇 麦 Mugi Kadowaki
1992年生まれ、東京都出身。2011年デビュー以来、映画やドラマ、舞台を中心に活躍。2014年には映画『愛の渦』『闇金ウシジマくん Part2』『シャンティ デイズ 365日、幸せな呼吸』での演技が評価され、数々の映画賞で新人賞に輝く。他、主な出演作に映画『二重生活』『止められるか、俺たちを』『あのこは貴族』、連続テレビ小説『まれ』、大河ドラマ『麒麟がくる』、ドラマ『ミステリと言う勿れ』『リバーサルオーケストラ』など。2023年は主演映画『ほつれる』が9月8日公開予定。また2020年の舞台「ねじまき鳥クロニクル」の再演が11月より上演される。

 
 

<作品紹介>
『渇水』

6月2日(金)より全国公開中

出演:生田斗真
門脇麦 磯村勇斗 山﨑七海 柚穂/宮藤官九郎/宮世琉弥 吉澤健 池田成志
篠原篤 柴田理恵 森下能幸 田中要次 大鶴義丹
尾野真千子
原作:河林満「渇水」(角川文庫・刊)
監督:髙橋正弥
脚本:及川章太郎
企画プロデュース:白石和彌
配給:KADOKAWA


撮影/中垣美沙
取材・文/須永貴子
構成/山崎 恵