難聴の原因は、加齢だけではない。耳の遠くなった方とのコミュニケーション術のポイント。


山田:難聴には「感音性難聴」という音を感じる方に問題がある場合と、「伝音性難聴」という音を伝える方に問題がある場合の2種類にわけることができます。

「伝音性難聴」では、耳の通り道に耳垢が詰まって聞こえないような場合もあり、この場合は耳垢を掃除したら症状が改善することもあります。また、音は骨の振動により伝わっているのですが、この骨の振動がうまくいかなくなる病気もあり、こうした病気も「伝音性難聴」に該当します。

 

編集:耳垢を掃除するだけで難聴が治るかもしれないって、あまり知られていないですよね! 

山田:そうですね。そしてもう一つ、「感音性難聴」というのは、音の感じ方の問題です。音を受け取る神経の働きがうまくいかなくなる、ということなのですが、その最も頻度の高い原因が加齢ですね。他には騒音への暴露ですとか、薬剤によるものもあります。「メニエール病」もこの「感音性難聴」の原因となることがあります。

編集:「メニエール病」もよく聞く病名です。「突発性難聴」なども、「感音性難聴」に入りますか?

山田:おっしゃる通りです。「メニエール病」は20代~40代、そして「突発性難聴」は40代~50代ぐらいの方が多い病気です。

65歳以上の方を専門とする私たち老年医学科ではあまり診察する機会がないのですが、患者さんの中には長い間「メニエール病」を患っていて難聴をお持ちの方もいます。

「メニエール病」はめまいが特徴的な病気なのですが、この場合、難聴は初期には一時的なもので、低い音が聞こえにくくなります。加齢による難聴の場合は高い音が聞こえなくなるので、対照的ですよね。

編集:難聴といっても、年代によっても、原因によっても違ってくるのですね。

山田:そうですね。特徴も異なりますので、加齢による難聴と、「メニエール病」や「突発性難聴」による難聴の区別がつかない、ということはあまりないですね。

編集:ありがとうございます! ちなみに、高齢の親の耳の聞こえに不安を感じたとき、どんなタイミングで耳鼻科の受診を勧めればいいのか教えてください。

山田:軽度の聴覚低下が起こっている可能性があるかを判断するポイントは、たとえ静かな環境下で会話ができていても、集団に入った時やうるさい環境、顔の見えない電話での聞き取りが悪くなり、繰り返し聞き返される、という場合です。

症状の重さに応じた対応になりますので、軽い聴覚の低下であれば補聴器が必要ない場合もあります。耳の聞こえが悪くなった方とコミュケーションをとる際の注意点がいくつかありますので、ご紹介しますね。

まず、ついつい耳元に寄ってしゃべりたくなりますが、口の動きが見えなくなるので避けていただき、少し離れて顔の見える位置で話してください。
そして、大きな甲高い声で叫ぶように話すのではなく、低い声で、ゆっくりとはっきり喋ること。また、同じ言葉を繰り返すよりも、言い換える方が理解しやすいこともあるので、言い換えを意識していただくこと。左右の耳に聞こえの違いがあれば、聞こえのよい方の耳に向かって喋っていただくこと......。

こんなポイントを意識していただくだけでも、随分と伝わりやすくなりますよ。

編集:少し離れる、低い声で、ゆっくりはっきりと喋る。伝わらない時は言い換える。意識したいと思います!

山田:そうした工夫でも解決しない場合は、やはり補聴器を含めた介入が必要な可能性がありますよね。補聴器を嫌がられる方も多いのですが、今は色々なタイプがありますので、あまり偏見を持たず、オープンな気持ちで医療機関にアクセスしていただけるとよいと思います。

編集:今回は、加齢による難聴だけでなく、難聴について幅広く学ぶことができました。引き続き健康的な生活習慣を意識したいと思います。また、耳の聞こえが悪い方とのコミュケーションをとる場合のポイントについては、普段からも心がけたいなと思いました! ありがとうございました!
 

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構成/新里百合子

 


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