「自律神経失調症」という病名はない。自律神経とは?


山田:「自律神経障害」という、自律神経に障害を起こしてしまう原因となる病気はいくつもあります。たとえば糖尿病やパーキンソン病といった病気によって自律神経がうまく機能しなくなることは十分に考えられます。ただ、皆さんが使用されている「自律神経失調症」では、実際に自律神経には障害も「失調」も起こっておらず、別の問題を指して使用されていることが多いのではないでしょうか?

医療現場で使われている言葉と、実際に起こっていること、そして世の中で使われている言葉の持つイメージが乖離する現象が起こっているのかもしれませんね。

アメリカで診療をしていて、「自律神経失調症」に該当する言葉は、聞いたことがありません。おそらく日本独自で使用されている言葉ですよね。少なくとも、過去に勤務した日本の病院のカルテでこうした病名を見たことはなく、医学的に定義された病気でもなく、医療者が積極的に使うような言葉ではないように思います。

 

編集:医学的に定義された病気ではなかったのですね...!  あまりにもよく聞く名前だったので、病名として受け入れていました。

山田:では、自律神経に障害が起こっている状態とはどんな状態かを説明してみましょう。まず、自律神経は大きく、交感神経と副交感神経の2種類に分類できます。非常に重要な神経で、戦うときは交感神経の働きが必要になりますし、お休みを取るときは副交感神経の働きが必要になります。この2つの神経の働きのスイッチが自動的に切り替わることによって、人の営みがスムーズに行えるようになっています。自律神経の働き自体は、とても大切なものです。

ただ、この神経の働きに、糖尿病やパーキンソン病のような病気が原因となって障害が起こることもあります。心拍数が意図せず変動したり、血圧が乱高下したりすることもあり、椅子から立ち上がる時に血圧がすっと下がってしまい意識を失って倒れてしまうこともあります。とても危険ですよね。あるいは、膀胱の症状として、尿失禁などもよく知られた症状です。

こうした症状が自律神経に障害ないし「失調」が起こった際に考えうるものです。世の中で知られたいわゆる「自律神経失調症」とは、異なるのではないでしょうか?

編集:たしかに全くちがいました! とにかく疲れやすいとか、常にだるいとか、不調が続く……といった症状を説明する時に使用していたと思います。

山田:そうですよね。その他にも、ストレスへの耐性が小さく、頻繁におやすみが必要になってしまう。抑うつや不安などの症状が強い、そうした症状をまとめて「自律神経失調症」という名前をつけている場合もありますよね。
こうした症状は、おそらく本来の意味での自律神経の機能では説明できないと思います。

注意しなくてはならないのは、実際に体や脳で起こっていることと、使われている言葉が表現している内容に乖離がある点で、「自律神経失調症」という言葉を私自身が使用することはありませんし、より適切な言葉に置き換えられていかなければならない、と思います。

編集:なるほど……。ちなみに、なんとなくの不調、疲れやすさ、ストレス耐性の小ささなどが実際に症状として起こった場合、医学的にはどんな症状で説明されるのですか?

山田:おそらく単一の原因ではなく、人により様々な原因が背景にあると考えられます。個別に背景を探れば、甲状腺ホルモンの異常かもしれないですし、うつ病の症状かもしれない。それぞれの方に別のことが起こっている可能性があるのかな、と思います。

編集:では、疲れやすいとか、なんとなくだるいとか、そういった場合は、かかりつけ医の先生に診断してもらう……というのがベストなのでしょうか?