腹痛ですら、原因がわかるのは約半分。不確実性を受入れる大切さ。


山田:そうですね。仮に医療機関で「自律神経失調症」という言葉を聞いた場合、その多くは自律神経とは直接関連がないことかもしれません。血液検査やいろいろな検査を受けたけれども原因を突き止められなかった、ということの裏返しで、症状はあるものの明らかな異常がないため説明する言葉がなく、「自律神経失調症」という言葉が使用されている可能性があります。

編集:そうなのですね……。ただ、本当に症状がある、何らかの不調がある場合、やはり原因が知りたくなってしまいます。

山田:そうですよね。「原因がわからない場合がある」ということを、医師はもちろん患者さんご自身もご理解いただく必要がありますよね。不確実性は、不安なものです。でも、不確実性を受け入れられるかどうかは、医師の能力としても非常に大切なことなんですよ。

たとえば、お腹が痛いという主訴で入院になった患者さんのうち、3~4割程度は原因が明らかにならなかったとする報告もあります。

編集:そうなのですね!

 

山田:ただ、何か説明をつけないと医師側も不安だと思うでしょうし、患者さん側も満足できないですよね。そうしたギャップを埋めるために、「自律神経失調症」というような言葉が使われていくのではないでしょうか。

編集:不確実性を受け入れる、大切なことですね。と同時に、原因を知って安心したいという気持ちもすごくわかります。

山田:その安心は、偽物の安心である可能性もありますよね。特に医療の現場では、不確実な方が健全である、ということもたくさんあると思います。1回目に患者さんに会った時には全然わからないことでも、そこで無理やり言葉を使って診断すればその場では医師も患者も満足かもしれないですけれど、間違っている可能性もあります。

そんな時は時間をかけて、2回、3回、4回と患者さんと会って、新しい症状が遅れて出てきて、最終的に正しい診断ができることもあります。

1回目に全力を尽くして診断をしようとしたけれど診断がわからない、ということもたくさんあるので、その自分・あるいは状況を受け入れるということは非常に大切なのです。

編集:なるほど……。年齢を重ねると、色々と体の不調が気になりだすことも多く、症状があったり、困りごとがある場合はわかりやすい診断名が欲しいという気持ちもあります。
ただ、この「自律神経失調症」という言葉を一つ考えてみても、実際に医療現場で使われている言葉と乖離していたり、実際の自律神経障害と異なる症状をイメージしていたりと、かなり曖昧な認識だったこともわかりました。すぐに安心したい、と思う気持ちも無理はないですが、時間をかけて、冷静に症状と向き合っていきたいなと思います。 本日もありがとうございました!

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構成/新里百合子

 


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