チェック、ダブルチェック


松本さんの言葉をきいて、私は内心でやれやれと思う。

「いいえ、システムでオンボード(搭乗)済みになっている以上、それはあり得ないの。私たちが搭乗ゲートでどれだけ注意しているかさすがにこの2週間で学んだでしょ? 自動改札で、搭乗券をわざわざ個人で持ってもらったり、ご家族連れは呼び止めて点呼したりするのはすり抜けを防ぐため。乗ってないはずの人が乗っていたり、乗っているはずのひとが乗っていなかったりは、航空会社として保安上一番やっちゃいけないことなの」

「でも、人がやることですから、絶対はないですよね。私、この人、乗ってないような気がするなあ……」

 

私は後輩の挑戦的な物言いにちょっとむっとする。ミスは起こる。確かにその通り。だからこそ、チェック、ダブルチェックをしている。

もし松本さんの言う通り、搭乗口でチケットだけ改札を通り、本人がゲートを通らなかったとしたら……いや、そんなことはあるはずない。あってはならないことだ。

「神崎さん、20分休憩の時間なんで、私行ってもいいですか?」

私がタブレットを見て考えこんでいると、松本さんはのんきに笑顔で、しかしきっぱりとそう言い残し、すたすたと休憩室のほうに歩いていく。

――まだこのトラブルがどれだけ重大かわからないかあ……。

この仕事が、サービス要員である以上に保安要員なのだと理解する必要がある。きっと新人ちゃんにとっては、そのミスが自分のせいかどうかが一番重要で、遠くの空港で起こっていることは所詮他人事なのかもしれない。このことに焦るようになるのはまだずっと先の話なのだ。

 

スタッフの祈りと衝撃の無線


「まだ見つからないらしいよ、あのお客さま。どこいっちゃったんだろう……。那覇で空港出ちゃったのかもしれないね。機内がガラガラで、けっこう窓際の席に移動してたから、25人を5人のスタッフさんで引率していたんだけど白川さまがいないことに気づかなかったんだって。飛行機降りたところで点呼して発覚したらしいけど、きっと他のお客さまの流れにのって飛行機降りて、そのまま迷子になっちゃったんだろうね」

休憩室に入ると、タブレットをチェックしていた絵美が心配そうに話しかけてきた。みんな白川さまの無事を祈りつつも、何もできないのが現状だ。

「迷子です、って言い出せないのかも、本当に心配」

できることはなく、私たちは水分補給をしながら時計を見た。まもなく早番は終業。それまでに沖縄から解決の一報が入りますように。

そのとき、全社員がきいている無線からはっきりした声が流れてきた。

『〇〇航空トラフィック、3番ゲートから松本です! 321便に搭乗予定で行方不明だった白川さま、ゲート付近でミートしました。繰り返します、3番ゲートにて白川さまミート、お身元確認済み、ご本人に間違いありません。非常にお疲れで、脱水症状もあります。神崎さん、至急ホイールチェアー(車いす)をお願いします!』