「自分を理解してもらいたい」が恋愛としてもサスペンスとしても描かれる面白さ
 

上野:笹が実際の良子を知れば知るほど、最初の目的は何だったのかが分からなくなっていくじゃないですか。その笹の目を通じて、観客の良子に対する見方も変わっていく、その変化を体感できることが、この映画のメッセージや面白さの1番のポイントになるのかなと思いました。

 

パリュス:良子が笹と少しずつ近づいていくところがとてもよかった。地球外知的生命体へのメッセージを積み込んだ惑星探査機「ボイジャー」の話になった時、良子が「人間は知らない誰かにさえ自分の事を理解して貰いたいって、願う」といったセリフをいいますよね。あのシーンがすごく好きでした。「私がXでも好きになった?」という良子のセリフも、核心を突いた切り込み方が映画ならではでしたね。

上野:「私がXでも好きになった?」は私が考えたセリフです。よく「外国人観光客がマナーを守らない」という言い方をする人がいますが、マナーを守らない外国人を恥ずかしいと思っている外国人もいる、そういうことを考えたときに思いつきました。良子にそう言われた笹は、「自分が『良子=X』と決めつけていること」と「『X=悪』だと決めつけていること」の両方を、他ならぬ良子に見透かされたような気持ちになる。恐怖でドキッとしたのか、彼女に恋してドキっとしたのか、複雑に混じり合い始めます。

 

パリュス:映画は二人の恋愛をメインに、ちょっとサスペンスを強くして描いていて、その設定がすごく面白くて。ちょっと偉そうに聞こえるかも知れないけれど、全く別の作品として新鮮に楽しんでもらえる作品になっていますよね。ラストも小説はオープンエンディングになっていますが、映画は「隣人X」がもう少し近いものと思わせるような終わり方になっていると言うか。

上野:ラストには原作にはない良子のあるショットを追加したことによって、Xは誰かという答えとともに笹に救いも生まれたと思います。個人的には、ちょっとゾクッとするようなものも感じてほしいなって。これは自然? それとも意図的? って。誰がXなのか、誰がXでなかったのか、というのも含めて、あの結末が意図するものはなんなのか。良子は本当に何も知らなかったのか、それとも全てを見越していたのか、どちらともとれるようになっていて、原作を読んだ方でも楽しんでいただけるんじゃないかなと思います。