好きな建築家が「もし京都で家を作ったならば?」という発想で


最近ですと、京都のマンションのリノベは、第二回目でお伝えした私の好きなイタリア人建築家、「カルロ・スカルパが京都のマンションをリフォームするならどうしただろう?」という発想で作り上げた空間です。

陰影が美しい京都のリノベ事例。行正さんがデザインする住まいには、このような「cozy corner(心地のいい場所)」が必ずあります。こうしたくつろげるスペースがあるだけで、暮らし方も変わってきます。

彼が空間造りの中で重要視したのは素材。特に面積の大きいところを占める「壁」です。イタリアならばスタッコ壁だろうけれど、もし彼が京都にいたならば土壁を使うのではないか? と考えてリサーチを始めました。土にも種類がたくさんあり、仕上げ方法にしても幾通りもあります。そこで、まずはわたしにとって理想の壁を見つけるため、お寺や旅館などを巡りました。そして時間をかけて左官屋さんを探し、さらにそこから、土壁に合う“よしず天井”を張ってくれる大工さんと出会いました。

 

そうして壁と天井が決まった後に、わたしが好むシンプルな北欧家具や照明器具と伝統的な素材をマッチさせるにはどうしたらいいだろうか? ということを考えました。カルロ・スカルパの写真集や事例をいくつも見て、彼が好んで使っていた素材、真鍮(しんちゅう)を巾木や廻り縁にほどこすことで“洋”の要素を取り入れました。照明は陰影を感じるものを選び(調光器を取り付けるのは基本です)、キッチンの扉や冷蔵庫には竹の突き板を貼り…… と組み合わせていきました。「カルロ・スカルパならば、このたくさんの種類の木から何を、どの幅を、何色を選ぶだろう?」という基準があったので、迷うことなく組み合わせていくことができました。

壁と床を繋ぐ巾木(写真)と、天井と壁を繋ぐ廻り縁に真鍮の素材を施して。金属の鈍い光が洒落たアクセントになると同時に、洋と和の要素を繋いでくれています。

自分の住まう空間を自分でデザインしていくというのは、トライ&エラーの連続です。でも全てがうまく組み合わさったときの喜びは、一生忘れられぬシンフォニーを聴いたときのような、全ての楽器がマッチすることを目と耳とで体感できたような体験となります。

心地よいと思える空間を作り上げるには、まずは住まう人数に合わせて間取りを変更する勇気、好きなスタイルとの出会いを探し続ける忍耐力、どんなリノベが自分に合っているか、自身を見つめ直す冷静さが必要です。さらに、同居人がいれば、その人の考えも尊重しながら全体を整えていく交渉力も重要となります。

考えるべきことがあまりにも多くて、大変すぎると感じるかもしれません。でも不可能なことではありません。初めの一歩は、好きな空間を見つけること。そして真似できるところから、一つ一つ取り入れていくことだけなのです。じっくりゆっくり、人生をかけて、好きな空間づくりにトライしてみましょう!


納得のいく家づくり・部屋づくりのための 
〈 HOMEWORK 〉

みなさんはどんなリノベをしたいですか?

□ ストレスフリーなリノベがしたい
□ 好きなデザイナーがいるので、その人の世界観を自分の空間に取り入れたい
□ クリエーティブなことを考えるのが好きなので、自分でコツコツ工夫をしながら、DIYリノベしてみたい

□ 模様替え程度から始めてみたい

写真・文/行正り香
撮影/結城剛太

 


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