境界知能であるがゆえに陥る負の連鎖

2019年、就職活動で上京した女性が羽田空港のトイレで出産し、赤ちゃんをその場で殺害、遺体を公園に埋めるという事件が起き、世間を騒がせました。そして、公判前の検査で、この女性が境界知能であることが分かりました。

 

弁護側の被告人質問では、北井被告が小学生のころから授業についていけず、就職活動で企業に提出するエントリーシートの質問の意味がわからず空欄が目立ったことなどが明かされた。証人として出廷した母(55)は、こうした状況に気づかず幼い頃から叱責を繰り返したと打ち明け、「苦しい気持ちを何一つわかっていなかった」と泣きながら証言した。

朝日新聞デジタル 空港で出産・殺害、実刑判決の母親が訴えた「境界知能」とは?

 
 


もちろん、境界知能であるからといって犯した罪が許されるわけではありませんが、宮口氏は境界知能であるがゆえの困難が、罪を犯したり、犯罪に巻き込まれてしまうことに繋がる可能性を指摘しています。


日常生活や勉強、仕事、人間関係などで困難を抱え、生きづらさを感じているにも関わらず、教育や福祉の支援を受けられずに社会的な孤立や経済的な困窮に陥り、罪を犯してしまうケースもあるのではないか。さらにはうつ病になって自殺をしてしまう、そういった悪循環も起きていないか

NHK なぜ何もかもうまくいかない? わたしは「境界知能」でした

 


実際、法務省が公開している令和元年の新受刑者の能力検査値のデータによれば、全体の「IQ70~84」の境界知能にあたる人が、人口の約14%であるのに対し、新受刑者の場合、「IQ70~79」だけで21%以上に上るそうです。『ケーキの切れない非行少年たち』の中でも、医療少年院の中の少年たちが、簡単な計算ができなかったり、漢字が読めないという実態があったことが書かれています。今の社会では、境界知能という概念や、境界知能の人は社会に1割以上いて、支援が必要だということがなかなか知られていません。その結果、支援を受けられずに大人になった人が負の連鎖に陥ってしまう現状があります。