まずは住居費について考えてみましょう。当時の僕の家賃は管理費込みで10万5000円。東京・恵比寿駅から徒歩12分で広さ30㎡という条件を鑑みればリーズナブルなほうではあります。それでも、毎月10万円もの金額がただの借り物の部屋に消えているかと思うと、もったいなさは否めず、だったら同じくらいの金額でローンを組んでマンションを買ったほうが資産にもなるし、有益ではと思わなくもありません。

しかし、建物というのは当然老朽化します。長く住めば住むほど、あちこちガタも出るでしょう。そのとき、フットワークが軽いのは断然賃貸。傷みはじめた部屋を都度都度手入れしながら暮らすより、新しい部屋に住み替えたほうが快適指数は高い。家は資産になるけれど、負の資産になることもあるよなあと考えると、住居費だけでは単純にどちらがいいかは決めがたいのが正直なところです。

 

ならば、ハード面ではどうでしょう。同じ10万円の住居費をあてれば、持ち家の方が俄然グレードの高い部屋に住めます。当時、僕が借りていた部屋は入居前にリフォームされたばかりで内装は悪くありませんでしたが、浴室は未修繕のままだったので昭和風のタイル張り。日当たりも悪く、1日ベランダに干しても厚手のフーディーなんかは乾かなかった。この点では、持ち家に軍配が上がります。

 


ただその一方で、今この年齢であれば毎月10万円のローン返済もさほど負担ではないけれど、その状況がこの先ずっと続くかはわかりません。特にフリーランスなんて1年後どころか3ヶ月後の仕事の見通しさえつかない身。いずれ仕事が立ち行かなくなって青息吐息になっている将来もめちゃくちゃリアルに想像できる。自分の収入に応じて家賃をサイズダウンできる賃貸のほうが、浮草稼業の僕には合ってそうです。

将来的な安心も大事な項目です。独居老人になると、なかなか部屋を借りられないというのは、よく聞く話。年をとってから住まいの心配をするのは、さすがに辛い。ちゃんと雨露をしのげる場所があるのは安心という砦にもなります。

けれど、いくらローンを完済したところで、毎月の管理費や修繕積立金はかかる。特に修繕積立金なんて築年数が増すほど上がっていくだろうし、固定資産税や都市計画税といった出費も地味に痛い。家を買えば安泰というわけでもなさそうです。

比べれば比べるほど、どちらもメリット・デメリットがあって、決め手に欠ける。結局、賃貸にするか持ち家にするかは、単なる損得では選べないというのが、僕の結論でした。

じゃあ、どうしてマンションを買おうと決めたのか。答えはすごく簡単で。自分の人生に何か事件がほしかったからです。