人によっては怒るような、おふざけのなかにある人間の面白さ


――『正三角関係』というタイトルが印象的です。長澤さん、松本さん、永山さんの3人が三角関係を演じるのでしょうか。

長澤:どうでしょう?(笑)。いまはまだ役のお話はできないのですが、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』の物語をモチーフに、舞台を日本に置き換えた作品で、3兄弟を軸に物語は進行し、それが複雑に交差し、いくつものレイアーが重なっていくような、とてもおもしろい物語になりそうです。

 

ーープレスリリースによると“三兄弟は、⻑男は花⽕師、次男は物理学者、三男は聖職者である。⽗親と⻑男が「ある⼀⼈の⼥性」を巡っての三⾓関係が繰り広げられる――……”とあります。
長澤さんは「ある一人の女性」を演じられるのかなと予測したのですが。

長澤:それもまだ秘密です(笑)。
 

 


――NODA・MAPの作品はいつも事前情報が少なめで、観てあっと驚かされます。

長澤:最近、映画やドラマでもミステリーものなど、ネタバレに厳しい作品も増えていますよね。私はそういう明かさない宣伝も面白いと思っています。

ーー3人という関係性は、2人とはまた違うものがあります。どう思いますか。

長澤:2人、3人、4人……と人数によって人間の関係性には何か法則のようなものがあるのかもしれないと考えると面白いです。3人だと、ふたりが親密になって、ひとりだけ余ってしまいそうな気がして。偶数のほうがまとまりが良いかと思いきや、意外と3人で行動するほうがちょうど良かったりすることってありませんか。不思議と実は、3人のほうがバランスが良いような。ふたりだけだと、ふたりでずっと会話を続けることになりますが、3人だとちょっと疲れたなと思ったら、ほかの2人に会話してもらうなど、役割を交代することができて助かりますよね。

――野田さんの作るNODA・MAPの世界がお好きとのことですが、どういうところに魅力を感じていますか。

長澤:広い舞台の上で、たくさんの俳優たちが動きまわることで、壮大な世界観が立ち上る。その迫力はほかにはない独特なものだと感じます。それから、野田さんならではの言葉遊びはセリフを聞いているだけでも楽しいです。あまりにも情報量が多くて、1回、観ただけではすべてをキャッチできないかもしれないほどで。私自身がそうなのですが、台本を読み込むたびに、なるほどなあと理解が深まる、すごく厚みのある作品ばかりです。

ーー確かに野田さんのセリフは意味が何重にもなっていて、読み解く楽しみがあります。

長澤:ユーモアがありますよね。その独特のユーモアに野田さんの人柄が滲み出ている気がします。野田さんは、本音を引きずり出してしまうかたでもあって。野田さんの垂らした釣り針に引っ掛かってしまうような感じ。乗せ方がうまいから、つい本音が出てしまうんです。

――長澤さんの中にもいたずら心はありますか。

長澤:いたずら心、私も持っていますよ。私はどちらかと言えばひょうきんな人間で、ユーモアを感じるものも大好き。ときに自らふざけて見せたりすることもありますよ。

――野田さんの舞台をやると、その気持ちが開放されるのでしょうか。

長澤:ふだん抑圧しているものが解放されるというよりは、野田さんによって、人間が誰しもが持っているであろう、ちゃめっ気みたいなものが、より広く開放されることを感じます。野田さんの演出は、自分で気づいていない可能性への向き合い方を教えてくれて、広がりを与えてくださるようで楽しいんです。もちろん真面目であることは大事ですし、なにごとも真剣に取り組みたいと思っていますが、人間の本当の面白さはそこにはないような気がして。人によっては、怒るようなことのなかに面白さが見え隠れしてたりすることもありますし。野田さんは、その人の面白いところや人間味のあるところに気づいて受け入れてくれるから、多くの俳優が、野田さんの舞台に出たくなるのかなと思います。