TSMCは典型的なグローバル企業ですから、同社が従業員に対して提示する賃金は当然のことながらグローバル基準であり、日本国内の一般的な賃金と比較すると1.5倍以上の開きがあります。今まで安い賃金でしか働けなかったところに、いきなりグローバル基準の外国企業がやってきたわけですから、TSMCの求人には人が殺到することになります。関連する企業も次々と熊本に集まってきますから、地域の賃金が一気に上昇する結果となりました。しかしながらTSMCからすれば、普通にビジネスをしているだけであり、過剰な消費や支出を行っているわけではないのです。
 
ニセコについても同じことが言えるでしょう。

羊蹄山を望む北海道・ニセコのスキー場(写真は2020年)。写真:AP/アフロ

私たち日本人からするとカツ丼が3000円というのはびっくりするような値段ですが、先進諸外国の人たちからするとハンバーガーなどのファストフードを食べるのに15ドルから20ドル程度のお金がかかることはごく当たり前のことです。米国では大卒新入社員の初任給が日本の2倍以上ありますから、昼食に3000円というのは少し高いかもしれませんが、おかしな値段ではありません。
 

 


この価格差やそれに対する感覚の違いは、日本が貧しくなったことに起因するものであり、TSMC関係者や外国人スキーヤーが浮かれたように過剰消費しているわけではありませんから、これをバブルと表現するのは適切ではないでしょう。

自国民が消費するモノやサービスと、外国人が消費するモノやサービスに価格差が存在しているような状態のことを経済の分野では「二重価格」と呼びます。

経済水準が低い途上国では、外国人向けの飲食店価格が、現地人向けの価格の2倍以上することは当たり前であり、世界を見渡せば、こうした経済構造は特段、珍しいことではありません。二重価格が形成されている経済圏では、むしろ外国人の富を日常的にうまく活用し、これを経済拡大の呼び水にしています。

非常に残念なことですが、菊陽町やニセコで起こっていることは、日本が途上国型経済に転落しつつある現実を端的に示しているといってよいでしょう。

私たちは、日本が貧しくなっているという現実を受け入れ、こうした二重価格をうまく利用して経済運営を行っていくのか、それとも先進国としての地位を取り戻し、外国人の富に頼らなくても済むよう努力を積み重ねるのか、決断を迫られているといえるかもしれません。筆者は後者であってほしいと願っているのですが、そのために私たちが背負わなければならない努力は並大抵のものではないでしょう。
 

前回記事「大谷選手の会見でどうしても残る疑問点...背景に「米国のエリートセレブに求められる想像以上の潔白さ」」はこちら>>

 
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