最近では少なくなりましたが、かつての日本ではどうしても戸建て住宅でなければ嫌だという人が多く、このニーズが郊外の宅地開発を後押ししてきました。昭和の時代までは「マンションではきちんと子供は育たない」などという、非科学的な話も流布していたくらいですから、土地に対する信仰心がかなり強かったのかもしれません。

 

政府の住宅政策も郊外の戸建て住宅を対象としたものが中心でしたから、都市部での良質な住宅開発もあまり進みませんでした。

こうした経緯がありますから、日本人の通勤時間を一気に短縮することは難しいのですが、わたしたち自身にもできることはあります。

もっとも現実的なのは、可能な範囲でできるだけ職場に近い場所に住むことです。ファッションサイトを運営するZOZOやネット広告大手のサイバーエージェントなどIT系企業の中には、オフィスに近い駅に住むと補助が出る制度を設けているところが少なくありません。職場と住居が近いところにあると、社員に余裕が生まれ、生産性が向上するというのがその理由です。

筆者は職業柄、ある程度の自由がききますから、以前から職住接近を実施していますが、そのメリットは計り知れません。時間に余裕が生まれたり、風邪をひかなくなったりと様々な効果がありましたが、もっとも大きかったのは、月々の支出が激減したことです。

筆者はお酒が好きなので、以前はよく飲みに行っていたのですが、都心に住んでいると、繁華街にはいつでも行けるという感覚になり、逆に出歩くことが少なくなりました。職住接近を実現した多くの人から同じことを聞きましたから、この話には、ある程度普遍性があると思ってよいでしょう。

中心部に近い住宅は確かに家賃は高いですが、郊外の2倍になるわけではありません。多少家賃が高くても、減る支出もありますから、効果の方が大きいと筆者は考えます。

もうひとつの方法は、会社側の理解が必要となりますが、柔軟な勤務時間の設定でしょう。家の場所を変えることができなくても、いつ会社に行くのかという時間を自由に決められれば、職住接近に近い効果が得られます。

しかし柔軟な勤務体系を実現するには「あうん」の呼吸で全員揃って仕事をするという、昭和型の習慣を断ち切り、責任の所在をはっきりさせたうえで、仕事の評価もドライに行う必要があります。労働者の側にも甘えは許されません。数字にしにくい仕事であっても、成果をしっかり文書や数字で残して会社に説明することができなければ、こうした勤務体系は実現できないでしょう。

過酷な通勤が少し緩和されただけでも、わたしたちの生活はもっとラクで豊かなものになるはずです。努力してみる価値はあると筆者は考えます。

 
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