話を元に戻します。優先接種を受けている自治体トップが、事前に優先接種の基準を示し、それに住民が納得している状況であれば、筆者は何の問題もないと思います。しかしながら政府が示した優先接種の基準には、行政機関の長は含まれていませんし、各自治体において事前の説明はなかったはずです。

2月から始まった医療従事者への先行接種。約480万人が対象だが、首相官邸ホームページに掲出されている「医療従事者等への総接種回数」は5,480,723回(5月17日時点)。今も全体の半数以上が2回目の接種を待っていることになる。写真:代表撮影/ロイター/アフロ

そもそもコンセンサスが得られている話であれば、問題視されることもなかったわけですし、行政トップは医療従事者であるなどという、とってつけたような説明を繰り出す必要もありません。こうした説明を行っている段階で、ある程度、後ろめたいことであるとの認識を持っていた可能性が高いと考えてよいでしょう。

 

組織というのはルールが絶対であり、構成員がそのルールを守れなければ、組織は確実に機能しなくなります。

政府が定めた優先接種の基準があり、自治体独自の変更を行っていない以上(もしくは住民に事前に告知され、かつ住民が納得している状態ではない以上)、それがルールであることは明白です。当然のことですが、トップ自らがルールを破れば、構成員はルールに従う合理性を失いますから、暴力や圧力でも行使しない限り、構成員はルールに従ってくれなくなります。

はやくワクチンを打ちたいという気持ちは分かりますが、トップがルール破りをやってしまえば、組織はおしまいです。こうしたことが繰り返されると、地方自治だけでなく民主主義そのものを疑問視する人が増え、社会はますます不安定となるでしょう。

悲しい話ですが、コロナ危機のような非常事態が発生すると、普段は隠されていた人々の本性が露呈することになります。

根本的にはワクチン接種が遅れていることが最大の原因ですが、なぜ先進国で日本だけ接種が遅れているのか、本当の理由は明らかにされていません。おそらくですが、背後には様々な利権や利己が絡んでいるものと推定されますから、結局のところ、自治体トップの優先接種とワクチン遅延問題の根っこは同じです。

ワクチン接種がスムーズに進んでいれば、優先接種の問題は起きなかったかもしませんが、こうした問題を引き起こす社会だからこそ、結局、ワクチン接種もスムーズに進んでいないと考えられます。日本人は集団を作るのは得意ですが、チームを作るのは苦手であるとも言われます。今の日本に必要なのは「絆」ではなく「チーム」ではないでしょうか。


前回記事「コミュ力重視の入試で起こっていること。格差以前の問題点とは」はこちら>>

 
  • 1
  • 2