まずは、じっとこの絵を見てみてください。

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「ひゃー! ノートや色鉛筆、夢中になって集めてた〜」
目が♡ になって、懐かしさに悶絶する人たち。
「なにこれ? 可愛い! なんかトキメいちゃう」
未知の感覚に感情を揺さぶられる人たち。
乙女チックなレトロ系が大好きな方も、初めて見る方も、目を釘付けにしてしまうこの絵は、「MACOTO」こと高橋真琴氏の作品。

星のように輝くおおきな瞳、華やかなドレスや花に彩られたロマンティックな少女や、お姫さまの絵に見覚えのある方も多いでしょう。髪の毛の1本1本、レース編みの細部に至るまでていねいに描き込まれた繊細な線、透明水彩を活かした濃淡の美しさのなかに、優美な気品、優しさ、清潔感が漂います。

「少女フレンド」「マーガレット」といった少女漫画誌や学年誌の表紙絵はもちろん、文房具、布製品、自転車など様々な商品にもその少女画が採用され、1950~1970年代にかけ一世を風靡。

少女画界のレジェンドでもあり、多くの女の子たちを熱狂させた伝説の画家なのです。

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©️高橋真琴

真琴氏は1934年生まれの男性、と聞いて驚く人も多いことでしょう。少年時代に、「これだ!」とひらめき、少女画ひとすじに描きつづけて、御年87歳の今なお現役アーティストとして活躍中。

日本を代表するファッションブランド、コム・デ・ギャルソンの2018春夏コレクションには、この大きな瞳の女の子が登場しランウェイを沸かせるなど、国内外に多くのファンを持つ、唯一無二の存在なのです。

なぜ、彼の描く女の子たちは、私たちをずっと魅了し続けるのでしょう?

 
 

女の子はみんなお姫さま


昔話からアナ雪に至るまで、いつの時代も多くの女子が憧れる「お姫さま」。美貌、教養、笑顔といった美点は、きらびやかな世界の究極の女子力ですが、MACOTOワールドに登場するお姫さまには、さらに清潔感、優しさ、気品、恥じらい、凛としたたたずまいが、大きな魅力を放っています。

真琴氏は「女の子はみんなお姫さま」だから、自分は、そのお姫さまの心の声に耳を傾け、どんな姿になりたいかを、しもべとなって作り上げているといいます。

「僕は、仮死状態で生まれ、戦争中の空襲では奇跡的に命を救われ、子どもながらに生きる喜びを実感して、それからは好きなことを好きなようにやろうと決心しました」と語る真琴氏ですが、ブレずにスタイルを貫く原点はそんなところにあるのでしょう。

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©️高橋真琴


海外のファッション、憧れのスタイル


可憐な少女画からさりげなく見える、外国の生活様式や文化。描かれた当時の最新の流行ファッションやヘアスタイルなど、おしゃれなエッセンスが凝縮されていて、一枚の絵を飽きることなく存分に楽しむことができます。

「日本にはまだ海外の情報が少なかった1960年代に、取材でたびたび海外へ行く機会に恵まれました。街並みや風景、人物をスケッチブックに残し、海外の文化やファッションを日本に持ち帰りました」と真琴氏。

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©️高橋真琴
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©️高橋真琴
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©️高橋真琴

少女たちの背景に、さりげなく配された建物や自然などから、その子のいる場所の空気感まで表して、まるで旅をしているような気分にもさせてくれるのです。

星の瞳に見つめられて


真琴氏の絵の大きな特徴としてあげられるのは、瞳の中に描かれたきらめく星。深みのあるその目に見つめられただけでキュンとしてしまいます。
少女漫画のキャラクターの瞳に星が入っているのは、いまでは定番となっていますが、その星を描いた最初の漫画家だともいわれていて、NHKの「チコちゃんに叱られる!」でも採り上げられたことがあるほど。

「評論家は、僕のことを瞳に星を入れるスタイルを完成させたといってくれているようです。嬉しいこと楽しいことがあったときや、何かに夢中になっているときの、瞳のキラキラした瞬間ってあるでしょ、それを表現したかった」と真琴氏。

そして、画面のむこうの少女たちは、見る人と目が合うようにいつもこちらを向いています。真琴氏によると、その理由は「ハッピーなときは、よかったね、と悲しいときは、元気だしてね、とみんなの心に寄り添う絵を描きたいから」なのだそう。

見る者の心理状態次第で、さまざまに感じとれるので、自分だけのストーリーを想像する楽しみが生まれるのです。

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©️高橋真琴


生きとし生けるもの、みな家族


動物好きの真琴氏は、家族同様のペットの犬と猫はもちろん、庭にやってくる鳥たちや虫までにも、声をかけて接するといいます。子ども時代に戦争を経験し、ぎりぎりのところで命拾いした体験から、森羅万象に感謝をしながら生きるという哲学が生まれたのでしょう。

植物に対しても同じ。絵のなかから花の香りまで感じ取ってほしい、と草花を庭で育てながらよく観察しているとのこと。少女画の背景には、草木の一本一本まで凝らされていたり、動物や小さな虫たちまでが表情をもって描かれています。

絵のなかの生き物すべてから愛情あふれる視線と優しさを感じるのは、真琴氏の生きる姿勢が映し出されているから。真琴画とは、見ているこちらまで幸せな気持ちにしてくれる絵なのです。

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©️高橋真琴

そんな真琴画がギュッと詰まった画集が刊行されました(2021年10月28日刊行)。

箔押しがキラリと輝くカバーに包まれた『高橋真琴の宝石箱』には、’60年代の作品から近作まで約150点もの少女画を収録。さらに、真琴氏の素顔に迫る「真琴先生への31の質問」コーナーや、あちこちに散りばめられた真琴語録など、ミニコーナーも充実しています。

両手にちょうど乗っかるような、可愛らしくて美しいブックデザインは、その本がもつ声をきいて、これぞという姿に落とし込む装丁家・名久井直子氏によるもの。自分へのご褒美や、大切な友人へのプレゼントにもおすすめです。

大人女子をキュンとさせる、懐かしい、けれど新鮮なMACOTOワールド。画集『高橋真琴の宝石箱』には、あなたに語り掛けてくる一枚がきっとあるはず。

「しばらくファンの方々に直接会うことはできていないけれど、これを見て、またみなさんも元気になってほしい」と真琴氏はいいます。来年迎える米寿を前に、新たな真琴ファンがふえそうな予感です。


試し読みをぜひチェック!
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『高橋真琴の宝石箱』
高橋 真琴  著

高橋真琴が描くおひめさまや少女たちは、いつもわたしたちの心をとらえ、励まし、ハッピーにしてくれます。素敵なものがたくさん詰まった宝石箱のように、高橋真琴の美の世界を、ぎゅっと綴じ込みました。扉をひらけば、そこはMACOTO WORLD……

掲載総数149点/美しいオールカラー5色印刷、232p/特製MACOTOシールつき/真琴語録や「真琴先生への31の質問」収録/いつもそばに置きたい148×148mmの可愛いサイズ/箔押しが美しいカバーデザイン


高橋真琴プロフィール
1934年、大阪に生まれる。貸本漫画でデビュー後、雑誌「少女」にカラー連載『あらしを こえて』などを発表。以後、「なかよし」「マーガレット」などの少女漫画誌の表紙や口絵、挿絵を描くほか、スケッチブックや筆箱といった文房具に数多くの少女画を手がける。1992年から現在まで、定期的に新作個展を開催し、精力的に作品を発表している。著書に『ロマンティック乙女スタイル』『夢見る少女たち』(ともにパイ インターナショナル)『真琴の美学』『あこがれ 高橋真琴画集』(ともに復刊ドットコム)『高橋真琴の少女ぬりえ 世界のお姫さま』『同 日本のお姫さま』(ともに講談社)などがある。


ライタープロフィール
五十嵐千恵子

編集者。大学卒業後、フリーランスとして出版社の編集の仕事に就き、250冊以上の出版に関わる。主な構成・編集作品に『井上ひさしの子どもにつたえる日本国憲法』(井上ひさし/著 いわさきちひろ/絵)、『』(かこさとし/作 ともに講談社)『おうさまがかえってくる100びょうまえ!』(柏原加世子/作 えほんの杜)などがある。また、いわさきちひろ作品集『ちひろBOX』、藤城清治作品集『藤城清治の旅する影絵日本』、東山魁夷作品集『東山魁夷ART BOX』など、画家の作品集も多く手掛ける。絵本塾講師として新人絵本作家の育成にもつとめている。


文/五十嵐千恵子

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