立っていられなくなり、商品を見るふりをしてしゃがみ込む。

頭を低くして呼吸を整えているうちに少しずつ吐き気は落ち着いてきたものの、この後予定していた映画鑑賞は断念するしかない。家で仕事中も、同じ体勢でずっと座っていると気持ちが悪くなり、ストレッチなどを挟むことが増えていた。

 

血の気も引いてしまい、先ほどまで騒いでいたのが嘘のようにぼそぼそとリュカに謝る。

「なんだって、今すぐ帰ろう!」

リュカは私以上に青ざめて店から飛び出すと、道路にまで飛び出してタクシーを捕まえた。


映画『エイリアン』に、妊婦が感情移入...?


「映画館は行けなかったけど、家なら休憩も挟めるし、今夜はのんびりオンデマンドかDVDでも観ようよ」

昼寝ならぬ夕寝をしたらだいぶ体調が戻り、リュカの好きな映画を選んでもらうことにした。

「それじゃ『エイリアン』は? 昔、誕生日にスペシャルBOXをもらったのに、ずっと観る機会がなかったから」

「……それ、お腹からエイリアン出てくる、けっこうグロい映画だよね?」

私としては珍しく遠回しに「妊婦が観るべき映画なのか」と指摘したつもりだったが、リュカは目を輝かせた。

「あ、蘭も観てる? 好き?」

「まだ子供の頃、一番最初のエイリアンだけテレビで観た。トラウマになりかけたね」

「僕もそう! だから子供が生まれる前に『2』から『4』まで制覇しちゃおうよ」

棚の奥で埃をかぶっていたラメ仕様のDVD-BOXを引っ張り出し、いそいそと準備を始める様子があまりに嬉しそうなので、仕方なく付き合うことに。

「うわッ、リプリーかっけー!」

「パワーローダー最強!」

だが続編の「エイリアン2」からまんまとハマり、結局BOXに入っている「エイリアン4」まで三夜連続で鑑賞してしまった。ネットの評判を見ると「1」、「2」が傑作と称賛されるなか「3」、「4」は酷評が目立つ。が、リュカは「3」を気に入り、私は「4」が忘れられそうにない。ラストの戦闘シーンでは号泣した。

「かわいそう! 赤ちゃんエイリアンがかわいそうッ! あの潤んだ瞳を見てよ」

ティッシュを抱えて訴える私に、リュカもまた瞳を潤ませた。

「蘭……あんな不気味なモンスターの子供に感情移入できるなんて、もう立派な母親だね」