定年を迎える前から「無形資産」への投資が必要


──今は男性も昔の価値観で生きるのは厳しいと思います。経済力や出世で成功体験を得るのが難しくなる中で重要性を増しているのが、坂東さんが『女性の覚悟』(以下、本書)で言及されている「無形資産」ではないでしょうか。特に50代は無形資産を増やしていく時期だと書かれていますが、坂東さんは何がきっかけでその重要性に気づいたのですか?

長らく公務員として働いて、57歳でそこから出ようと決意したことが大きかったと思います。公務員というのは給料も地位も責任も年功的に上がり、定年後の務め先まで用意してくれるのが当たり前の世界。そんな守られた環境から出ていくのは正直不安でしたが、幸いにも昭和女子大学で働きませんかと声をかけてくださる方がいました。その方とは顔見知り程度の浅い関係だったので正直驚きましたが、同時にそういったソフトネットワーク、つまり無形資産の重要性を強く感じましたね。

──浅い関係の方から声がかかったということは、いわゆるコネや天下りとは違って、坂東さん自身の実績やお人柄を純粋に評価してくださったのでしょうね。

雇用には日本のように一つの企業で様々な部署を転々としながらキャリアを積む「メンバーシップ型雇用」と、アメリカのように職務内容を明確にして専門性を重視する「ジョブ型雇用」がありますが、ジョブ型雇用のほうがソフトネットワーク、いわゆる人脈を大事にしますよね。私の見た限りでは、ジョブ型雇用で働かれている皆さんはとても社交的で、自分の会社以外の人との関係も大切にされていました。転職の際にはこのソフトネットワークが頼りになるからでしょうね。一方でメンバーシップ型の人たちは、組織の中だけでうまくやっていけばいいから外の人と社交的になる必要がないですよね。ただし、定年後はこうしたメンバーシップ型のご威光はなくなりますから、そうなる前から無形資産にコツコツと投資しなければいけないわけです。

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家庭に入っている女性も自分の力でやっていく覚悟を


──人生100年時代だと定年後40年くらいは無形資産を頼ることになりますね。定年延長の議論もいろいろ交わされていますが、やはり60歳定年というのは現実に合っていない気がします。

 

ちなみに、私が社会に出た頃は定年が55歳でした(笑)。当時でも55歳といえばまだまだ元気な年齢ですから、メンバーシップ型の象徴ともいえる役所は定年後の働き先をちゃんと紹介してくれたわけです。だから自分で探さなくても良かった。ただ、今はそういう時代ではないから、無形資産への投資が必要なんです。

──企業や組織以外での仕事はどうでしょう? 専業主婦として頑張りながら老後の生活を思い描いている女性もいらっしゃいますよね。

男性が頼りにしてきた企業や組織が力を失っているのと同様に、女性が今まで頼りにしてきた「家族」も力を失ってきていると思います。妻として母として一生懸命やれば老後も安泰という保証がなくなってきました。ですから、家庭に入っている女性も「自分の力で何とかやっていく」と覚悟しなければいけない。ましてや、子どもをあてにしてはいけません。