課金は本当に人生の問題を解決するのか?


「亜美、おはよう。今日は最後の模試だね、終わったら家庭教師の先生頼んでるから、テストの見直し、やってもらおうね」

受験生の朝は早い。といっても、明菜自身は必死の受験勉強とは無縁だったから、朝5時半に起きたことなどない。

亜美を学校に見送ったあとは、用事さえなければ明菜は二度寝するか、エステやマッサージに行くことにしているので、寝不足も大した問題ではない。結局昨日は、深夜3時近くまで受験関連のネットサーフィンをしてしまった。そして得た情報は、直前に本気を出さないと、とんでもないことになるらしい、ということだけ。

 

「……ねえママ、今日さ、先生に来てもらってもさ、私まだ自分で解き直しできてないんだよね」

 

亜美が焼いたパンとココアをもそもそと食べながら、つぶやく。夫は7時前に勝手に出て行くので、家の中は小さな声を聞き取るのに充分な静けさだ。

「え? 大丈夫よ、それを先生と一緒にやればいいのよ! 大丈夫、なんだって教えてもらえるから」

明菜が探しだした凄腕家庭教師は、去年偏差値42の子を女学院に入れた実績がある。なんでも過去問を完全に分析して、理科と社会を中心にピンポイントで「出る」ところを教えてくれるのだという。明菜には勉強の内容はちんぷんかんぷんだったから、SNSでよく見る狂気じみた勉強に伴走する母親の真似はできない。プロを連れて来るに限る。

「そういうことじゃないんだよね。もう教わることは全部、教わったんだよ……」

亜美が悲しそうな顔で明菜を見るが、その意図はよく飲み込めなかった。

不意に、多香子と成美の言葉が、断片的にフラッシュバックした。