しかし、すぐに口に出すぶん衝突したり、面倒が起きることも避けられません。
デモやストライキはその最たるもの。黙っているのは損と考える人たちなので、「周りに迷惑がかかる」とか「こんなことを言っては人に嫌われる」なんてことは気にせず、自分たちの考えを主張します。そして自分の意思を表現するのは大事なこととみなされているので、地下鉄が止まろうと飛行機の発着が乱れようと、市民は寛容に受け入れる感じです。

友人から聞いた話ですが、その昔、公務員年金改革を進めようとした政府に対し大規模な抗議デモが行われたときは、公的交通機関がほぼすべてストップしてしまったそう。それでも通勤はあるわけで、「皆、車がある人は乗り合いにしたり、自転車からキックボード、スケートボード、ローラースケートと、あらゆる手段を使ってなんとか会社に行ったのよ」。

スケボーやローラースケートで会社? と思わず笑ってしまったのですが、自分たちが不便を強いられても受け止めるその度量というか、対応に驚きました。

デモやストライキに限らず、政治的な何かなどの訴えがある場合は、チラシ配りをして訴える人が増えます。大事なことはきちんと主張しなくてはいけないと考える姿は、見習うべきだなといつも思います。

また主張が激しいというのは、怒りも我慢しないと言うことでもあります。
渡仏後すぐの頃、リッチなマダムの家の猫シッターのバイトをしたことがあったのですが、猫が3匹もいるのでとにかく抜け毛の量がすごい。私の実家では猫に粘着クリーナーを直接当てて毛を取っていたので、なんの気なしにコロコロして毛を取っていたところ、出入りしていたお手伝いさんにその様子を告げ口をされてしまい、マダムから恐ろしい怒鳴り声の電話がかかってきて震え上がりました。

冬の凍える道端で必死に30分ほど涙目で状況を説明。猫は痛がったりせず、むしろマッサージ感覚で喜んでいたことを伝えて、なんとか怒りを鎮めてもらったものの、「ああこれはもう次はないな」とガックリ。

今では我が家に猫が2匹もいるので、猫シッターのバイトは卒業しました(笑)。でも猫好きにとっては猫シッターのアルバイトは楽しく、かつ日本人は信頼感があるようで、わりと需要がありました。

ところが翌日ごく普通に「元気〜?」と電話がかかってきて、本当に驚きました。さらにその後は、猫たちにすっかりなつかれて、めでたく猫好きであることを証明できたこともあり(?)、ご飯会に誘ってもらえるまでになったのです。

言いたいことを我慢しないぶん後腐れもない様子で、そのあっけらかんとした感じに「人がどう思うとか、本当に気にしないんだな〜」ともはや感服したのでした。

私もこの国に住み始めてからだいぶ必要な主張はするようになったと思いますが、まだまだその境地にはたどり着けていません。
 

*この連載は、週1回、毎週日曜更新に変更になりました。次回は4月16日公開です。お楽しみに!

 
撮影/Yas