お腹の傷は、闘いの勲章


それからの数日間は、本当に、思い出すのも嫌なほど辛かったです。39度超えの高熱、激しい頭痛と吐き気、低血圧、傷の痛みが次々と襲ってきました。

特にひどかったのが低血圧。手術の翌日から歩行訓練をするよう言われるのですが、私の場合は起き上がると血圧が70を切ってしまうことが続き、ようやくベッドから立ち上がることができたのは術後3日目です。

しかしそこからは、少しずつ回復していきました。点滴や尿道カテーテル、ドレーンなど身体から5本も出ていた管が一本ずつ抜けていき、全く動かせなかった体の可動域が毎日ちょっとずつ広がっていきます。大袈裟ですが、まるで人類の進化を見ているかのように、ひとつひとつのことに感激し、小さなことに幸せを感じました。

 

最後の管(ドレーン)がお腹から抜けたときに、それまで怖くて直視できずにいた下腹部の傷をそっと見てみました。

テープで隠れていて縫い目までは見えませんでしたが、おへそのあたりから下に向かって、15cm以上に及ぶ線が伸びていました。もう二度とビキニは着られないけど(そもそも今さら着る気もないけれど)、この傷跡は頑張った勲章なんだと思うことにしよう、と決めました。

人間の体は不思議なもので、それほど大きくお腹を切ったのに、毎日1日ごとに見違えるような回復を遂げていき、痛みも少しずつ軽減されていきます。

しかしようやく体を動かせるようになると、今度は術後の合併症との闘いが待っていたのです。

 

リンパ浮腫に排尿障害。合併症が次々と…‥!


リンパ節を取った影響で、下半身の一部が腫れ上がるようにむくんでしまい、「二度と戻らなかったらどうしよう!?」とかなり困惑しました。結局それは術後の一時的な症状だったので1週間程度でおさまりましたが、それとは別に、術後数カ月から数年後、浮腫が現れる可能性があるようです(リンパ浮腫)。

※子宮頸がんに対して行われる広汎子宮全摘術や準広汎子宮全摘術では、子宮周囲の骨盤内にあるリンパ節も摘出します。中でも足の付け根(鼠径部)付近のリンパ節を多く摘出すると、足からのリンパ液の流れが悪くなり、足側に鬱滞するため下半身に浮腫を生じ、これをリンパ浮腫と言います。リンパ浮腫の症状は個人差が大きく、短期間で改善する場合もあれば長期間に及ぶ事もあります。対策として、下肢の挙上、弾性ストッキング、リハビリテーション、手術などが行われます。近年では、浮腫を起こさないよう配慮した手術が行われるようになってきています。

リンパ浮腫の症状は個人差が大きく、短期間で改善する場合もあれば長期間に及ぶ事も。対策として、下肢の挙上、弾性ストッキング、リハビリテーション、手術などが行われます。近年では、浮腫を起こさないよう配慮した手術が行われるようになってきています。

ちなみにこのコラムを書いている今、手術から4ヶ月経過していますが、最近になって足の付け根がパンパンに膨れ上がり、下着をはいているのも辛く、下半身全体が重だるい日があります。浮腫を深刻化させないためには、歩きすぎたり、脚に傷をつくらないよう気をつけなければいけないらしく、今後もずっとこうした事情と付き合っていくことになるかもしれません。やはりリンパ節を取った以上、何事もなかったことにはできないのだな……と痛感しています。

 

また、手術の影響で避けられなかったのが、排尿障害。広汎子宮全摘出術では、膀胱の神経がダメージを受けることがあり、術後は尿がうまく出せなくなります。私も、カテーテルを抜いた後からすぐに排尿訓練が始まりました。しかしこれが地味に辛いんです。

排尿訓練は、広汎子宮全摘出術を受けた人にとって入院中の最後の関門です。「尿が自力で出せるようになれば、退院が見えてくるよ」と言われるので、うまくできないと余計に焦ってしまうんですよね。

人によっては、この排尿障害がメンタルに大きなダメージを与えるらしい……と聞いてはいましたが、私も実際、なかなか進歩しない状況に嫌気がさして、入院中にひとりで号泣してしまったことがありました。

親友に泣きながらLINEをしたら、「昔おじいちゃんが排尿訓練のようなものをやっていたんだけど、蛇口から水を出して音を聞きながら尿を出す訓練してたよ! 騙されたと思ってやってみたら!?」と教えてくれました。

そこで半信半疑で、Appleミュージックで「せせらぎ」というBGMを探して試してみたんです。すると……。

なんと、前よりうまく尿が出せるようになりました。そこからはメンタルを立て直し、排尿障害をなんとか乗り越えることができたので、親友とおじいちゃんには一生感謝をしたいような気持ちです(笑)。

 

こうして様々な出来事を一つずつ乗り越え、私は16日間の入院生活を終えることができました。

その時の私は、まるで地獄から這い上がってきたかのような無双モードでした。「これでがんとの闘いは終わったんだ!」という達成感に酔いしれながら、退院前夜はウキウキ気分でパッキング。

……ところが、闘いはまだ終わっていませんでした。

子宮や卵巣を摘出。16日間の入院生活は想像以上に辛かった!
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イラスト/小澤サチエ
監修/東京慈恵会医科大学 産婦人科学講座 柳田聡
構成/山本理沙

 

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