稲盛さんに会えずとも京都へ


稲盛さんにはお会いにはなれなかったとのことですが、京都の京セラ本社を訪問されて関係者の方にお話をお聞きしたり、稲盛さんにまつわるものが見られる稲盛ライブラリーをご覧になったりしたとお聞きしています。

栗山:行きました。会えないですが来られますか、と聞かれたので、行きますと伝えて。京セラの稲盛ライブラリーの方がいろいろ気を遣ってくださって、稲盛さんについてのエピソードを語ってくださったり、いろいろな資料を見せてくださったり。

僕としては、「稲盛さん、お会いできなくて、ほんとにすいません」という思いが強かったので、久々になんだか子どものときの叱られているような感じでしたね。でも、行ってよかった。やっぱり全然、違いました。

実際に稲盛さんから怒られたご本人たちから話が聞けたりするわけです。本を読んでいるだけだと、生き様が神様のように思えるわけですが、その方々のお話の中には生身の稲盛さんがおられて。

それでこのとき、稲盛さんが執務デスクの上に「考えよ」と書かれたプレートを置かれていたと知って、僕も監督室にずっとプレートを置くようになったんです。僕の場合は、「考えろ」ですけど。能力がないですから、考えよ、では僕の場合はダメだろうと。

 


僕は僕らしいやり方で伝える


ただ、栗山さんのマネジメントは、稲盛さんのマネジメントとは違いますよね。稲盛さんはコンパしたり叱ったりと激しく部下を指導しますが、栗山さんはフラットに選手に向き合ってリスペクトするイメージです。

栗山:全然違いますね。本当はもっと怒鳴らないといけなかったかもしれない。でも怒鳴っても、怒鳴りに慣れると意味がなくなってしまうとも言えます。

大事なことは、結果的に伝えたいことが伝わって、相手が変わることです。それを最後まで諦めないということです。これは自分のやり方でやる、というだけの話だと思います。

実は僕の父親がガンガン怒鳴るタイプだったんです。毎日、怒鳴られてた。プロ野球に入ったとき、実家に電話して僕が敬語で喋っているのを聞いて、周囲から「誰と喋ってんの?」と聞かれて、「親父」と言ったらみんなに驚かれました(笑)。

厳しかったですね。だから僕は違う方向に行ったんだと思います。親父が嫌いなわけではないです。やり方が違うというだけです。ただ、もっと怒鳴ったほうが選手に伝わったかな、という反省もあります。僕のやり方が良かったとは思わないです。

 

何が僕らしいか、ですよね。激しく接して相手が気づける稲盛さんのようなスタイルもあれば、3日かかるけどずっと選手の話を聞いて、毎日こいつ面倒くさいヤツだと思われながら、また聞いてくるからしょうがない、なんてスタイルもある。こっちは諦めないですから。

あと、野球選手は個人事業主なんです。人に何かを強制されて動いても突出することはできません。突出する人間は自分でやります。最後のスイッチは、僕には押せないんですよ。気づかせることができても。だから、時間がかかるところはありますね。

 


稲盛さんに接点があった人たちがうらやましい


今回の稲盛さんについての最新刊『熱くなれ』を読まれて、いかがでしたか。

栗山:稲盛さんの話に加えて、13人の方が稲盛さんについて語っているわけですが、正直、うらやましかったです。皆さん、直接の接点をお持ちなわけですから。

ニデック(旧日本電産)のトップ、永守重信さんが新しいオフィスを作ったとき、置いてある観葉植物について稲盛さんから無駄だと指摘を受けたりするわけです。たしかに、観葉植物って、誰かが世話をしないといけない。けっこう大変なんですよ。なるほど、こういうところに目が向かうのか、と思いました。

サッカー元日本代表監督の岡田さんはよく存じ上げていますが、実は京セラがスポンサーをしている京都サンガの監督を頼まれて2度も断っているんです。でも、あの稲盛さんが岡田さんに頼もうとするのはわかります。やっぱり見る目があるな、と思いました。

そういえば、岡田さんから以前、聞いていた稲盛さんのエピソードがありまして。多くの経営者が集まる盛和塾で、ある会社が決算表を稲盛さんに見てもらったことがあった。すると、問題点をズバッとピンポイントですぐに見つけた、と。「あれは天才やな」と岡田さん、言われていて。

僕たちが知っておかないといけないのは、こういう日本人の先輩がいてくれた、という事実です。そして僕ら大人はそれを、ちゃんと伝えていかないといけない。稲盛さんという人の存在がまさにそうです。日本人である誇りですから。

こういう誇りをみんなが持っていたら、日本はもっと前に進めると思うんです。今の若い人たちは賢いから、すぐに理解してくれます。若い人たちは本当に、よく見ていますから。

インタビュー第2回は6月21日公開予定です。

『熱くなれ 稲盛和夫 魂の瞬間』
編著:稲盛ライブラリー+講談社 「稲盛和夫プロジェクト」共同チーム
定価:本体2090円(税込)
講談社

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最高の経営者であり、魂の求道者・稲盛和夫の人生における、情熱の瞬間。その瞬間を共有した人だけが知るエピソードの数々が、心を熱くする!

稲盛の経営哲学に“情熱”は絶対に欠かせないもの。自分の仕事に燃えるような情熱を持って取り組むことで、仕事だけでなく人生までも輝くことを、稲盛はその言葉と行動で人々に伝えてきた。本書では、稲盛の思想をあらためて紐解きながら、その熱い瞬間が切り取られた写真も紹介。また、その瞬間に立ち会った者、稲盛の熱に直に触れた者たちが、心震わせた経験を語り尽くす。

インタビュー:日本電産会長 永守重信、KDDI社長 髙橋 誠、京都大学 iPS細胞研究所 名誉所長 山中伸弥、FC今治会長 岡田武史、京セラ元会長 伊藤謙介、JAL元副会長 藤田直志、他、共に闘った部下たち、合併先の社員、長年の秘書など、13名の貴重な語り下ろしインタビューを掲載。

読めば心が奮い立ち、自分の仕事に夢中になれる。
よき人生を送りたくなる。


取材・文/上阪 徹
撮影/塚田亮平