お金を出し渋る会社と「絶対にやりたい企画」のせめぎ合い


他にも既にさまざまなインタビューで明らかになっていますが、『エルピスー希望、あるいは災いー』の企画を何度出しても通らず、結果的に企画が通ったカンテレに入社したという佐野さん。構想から実現までは実に6年! かかっています。

登壇された3名とも会社員なので、「企画を通すこと」には並々ならぬ苦労があることも明かしました。そんな中、業界全体が予算に厳しくなる中、それぞれの企画を通すコツの話に。ラジオディレクターの石井さんは、「オードリーのオールナイトニッポン in 東京ドーム」(来年2月開催)という、ラジオ番組のイベントを東京ドームでやるという異例の企画を通した際、「これくらいチケット売れますよ! と言い張るしかないですよね」と、とにかく成功するアピールに徹したと言います。

 

漫画編集者の林さんは、会社という縦割りの組織について「会社はクリエイターにお金を出し渋ったりしますが、それは自分たちの首を絞めていると思う」と指摘。未来に対する投資は一瞬は赤字に見えても、株主にも胸を張って「新しい才能にお金を払います」と言えることが、本来は正しいことなんじゃないか、と胸の内を明かします。

 

上司や上層部の人たちもサラリーマンであり、ポケットマネーから支払うわけじゃない。それなのに、「予算は出し渋って当然」になっている現状には、登壇者一同、そして会場のメディア従事者参加者もあるある、と大きくうなずきます。本当に何なんでしょうね、あれ。

 

「ダメ出ししたがる上司」はどこにでもいる


佐野さんは、『エルピス』は民放のゴールデン・プライム帯の連続ドラマの中で、かなり低予算で制作したと話していました。映像の美しさも評価を得た本作ですが、高性能のシネマカメラを安く借りたり、いいスタッフを紹介してもらったりと、地道な努力で低予算ながら高いクオリティを実現させたと言います。

そんな佐野さんは、企画を通すときは「ほぼはったりで、いかに意味のある作品か、面白くなるかということを、とにかく言葉を尽くして説得する」のだそう。その一方で、ドラマを実際には作っていない上司に、なぜ企画の良さを説明しなければならないのか? という疑問もあるそうです。ドラマを作ってないのに、“なんか言ったれ”という雰囲気だったり、“面白い”の一言だけでいいのに「ダメ出ししたがる上司」がいることも、林さんと石井さんの共感を呼んだエピソードでした。

いや分かるぅ。とりあえずなんかダメ出ししなきゃいけないルールでもあるんか? っていうくらい、いちゃもんをつけたがる上司っていますよね。筆者も“なんか言ったれ”攻撃に遭い、全然通らなかった企画が他の媒体で実現したらすごく反響があって、「それ見たことか」と思ったりすることが結構あります。企画を上司に通そうと試みた人なら、一度は経験したことがあるんじゃないでしょうか。