「次世代に投資する。お金をかける。育てる」

 

そしてこのセッションで印象的だったのは、随所で「次世代に投資する。お金をかける。育てる」ことが大事だ、という発言があったこと。

実際に佐野さんは新規企画・脚本開発の公募を行い、新しい才能の発掘にも取り組んでいます。メディア業界はシュリンクしていて、予算がない、人を育てる余裕がないなんて言われます。とくにフリーランスが多い業界なので、新人は収入の保障もなく、育ててくれる人もおらず、自力で踏ん張るしかないみたいな状況です。売れて生活できるまで、企画が通らない間など、どうやって生計を立てていけばいいのか、頭を抱える人も少なくありません。不安を払拭するには他の仕事を掛け持ちせざるを得ませんが、そうなるとオーバーワークになって創作にかける時間がなくなってしまったり……。

何事も、経済成長のためには「人への投資」が必要です。全体が傾いているからと人にお金をかけなくなると、いい才能も育たず、さらに業界は傾き続けることになります。新人にお金をかけないということは、“実家が太い”などの恵まれた人しか挑戦できず、多様性は失われますし、才能がある人が売れる前に力尽きて去ってしまうかもしれません。層が厚いほど全体のレベルは上がるので、まだ力のない新人が育っていける環境づくりって、すごく大事だと思うんです。

 

トップランナーたちも、もがいている


どうしたって、ある程度実績がある人に仕事が集中してしまい、新人に出番が回ってこないのはどの業界も大きな課題ではないでしょうか。だからこそ、各媒体の売れっ子たちが、新人にお金をかけること・育てることの大事さを意識してくださっているのは希望的でした。

斜陽と言われるメディア業界ではありますが、世界を熱狂させる漫画は生まれ続けているし、『エルピスー希望、あるいは災いー』のような超画期的で革新的で骨太で重厚なドラマも生まれ、深夜放送のラジオ番組のイベントが東京ドームで開催予定など、希望が持てることもたくさんあります。

みんなカツカツな中、必死でもがきながらいいものを作ろうと頑張っていることを、筆者は改めて実感しました。みなさんも、いいと思った作品があれば、ぜひ応援してあげてください。そして筆者も、ウェブメディアや出版業界に身を置く書き手として、疑問に思うことやもっとこうなって欲しいと思うことを、これからも発信していきたいと思います。
 


写真提供/「MEDIA DAY TOKYO 2023」運営事務局
文/ヒオカ
構成/金澤英恵
 

 

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