実際働いてみると見える課題


ーー本人も予想だにしなかったようなことが起きてしまうことがあるんですね。

田中:ただそれは支援機関の課題かと思います。発達障害の場合、過敏が想定されますので、苦手な環境についてヒアリングし、通勤経路や職場環境が確認のうえ、訓練や就職活動を行う必要があったと思います。あとは家でお母さんと喧嘩をしたから「メンタルが落ちていて仕事ができません」などプライベートの様々な出来事を理由に週に1回程度しか出勤できなくなっても仕事は続けたいとおっしゃっていた方もおられました。この方も、福祉施設の支援員さんは、通所では問題がなかったとおっしゃっていました。

就労移行支援事業所という福祉サービスは通所期間である約2年間の中で就労を目指します。もしも私が通う施設を選ぶとしたら、楽に通えて居心地がいいところよりは、自分の課題を厳しく見極めてくれて、課題解決の機会を与えてくれるような場所、通勤の体力をつけられるような場所を選び、できる作業や、通勤可能範囲を広げ、できるだけ就職先の選択肢を広げられるところを選びたいと思います。ベテランの支援者から聞いた話ですが、通所ではうまくいっていた人が、職場で調子を崩す理由にありがとうと言われない、ほめてもらえない、があるそうです。福祉施設では、訓練に通う人はサービス利用者なので、クレームが出ないためには、愛護的に対応する傾向があるのかなぁと思ってしまうことがあります。職場は出勤して当たり前、仕事をして当然なので、そのギャップにつまずいてしまう方もいるのではないでしょうか。医療機関のリハビリ職としても、患者さんとの関係性を保ちながらも、課題はしっかりとお伝えできるようにいつも悩みながら関わらせていただいています。

牧田総合病院のロビー

 

 

障害を受け入れることは簡単ではない


​ー​ー実際の事例で、40分ぐらいかけてリハビリ施設までタクシーで来ている人がいると聞きました。自分に合った福祉施設や作業療法士さんに出会うというのはハードルが高いんでしょうか。

田中:それが中途障害の難しさだと思います。障害という言葉を自分とは関係ない言葉だと思って、いわゆる普通に仕事をしていた人が、ある日突然病気になって入院し、急に障害者という立場になって、いわゆる障害や福祉と名の付く場所に通うことを提案される。未知の場所をすんなりと受け入れる方もいれば、自分の居場所だと感じられず、かといってすぐには仕事に戻れず、行き場がなくなり葛藤や孤独感を感じる方、自分は元の仕事に戻ればいいんだから、ここの施設は関係ない、とシャットアウトする方もおられます。制度上は自分の居住市区町村に通所サービスがあっても、利用したいかどうかは個人差があります。私が病院の作業療法士として心掛けていることは、制度的な社会復帰のサービスの提案はしますが、患者さんが受け入れられなかった場合は、せめて通院だけでも継続し、孤立することがないように、断られてもいいから本音を言ってもらえるように声掛けをすることです。遠回りでも、葛藤しても、自分なりの選択ができるまで伴走する支援者が必要と感じています。