一時期と比較すると、ペースは少し鈍化したかに見えますが、いまだに物価上昇が収まりません。私たちはモノやサービスの価格が安いことは絶対的に良い事だという価値観で生活をしてきましたが、価格が安いということは低賃金の裏返しでもあり、めぐりめぐって私たちの生活を苦しめています。私たちはそろそろ、価格に対する考え方をアップデートする時期に来ているようです。

これまでの日本企業は、基本的に良いモノを安く売るというスタンスでビジネスを行ってきました。良質な商品を大量生産することで価格を抑え、多くの人がそれを購入することで、消費者も生産者もメリットを得ていたのです。

こうしたビジネスは薄利多売と呼ばれますが、商品1個あたりの利益は小さくても(薄利)、たくさん販売できれば(多売)利益の絶対値は増えるという仕組みです。昭和の時代には多くの国民がモノを欲しがり、企業は大量生産を行っても十分な数の商品を売ることができました。

このように薄利多売のビジネスモデルは、経済が右肩上がりで成長している時にはうまく機能するのですが、人口が減り始める今のような時代には、逆効果となる可能性が高くなります。

イラスト:Shutterstock

成熟社会においては、モノに対する欲求がそれほど高くありませんから、そもそも商品がバンバン売れるということはありません。近年は円安が進み、輸入品を中心に価格が上がっていますから、消費者の財布の紐はきつくなるばかりです。こうした時代においては、品質の良いモノにはそれなりの値段を付け、商品価値を理解してもらった上で販売することが何よりも重要となってきます。

 

ところが、多くの企業がこうした時代の変化に対応できず、従来と同じような薄利多売のビジネスを続けています。コストが高くなっているにもかかわらず、価格を抑えていますから商品1個あたりの利益は減少。安くしても販売数量は伸びませんから、企業全体の利益も増えません。

これまでの時代であれば、価格が安いことは消費者にとって絶対的なメリットでしたから、多少、企業の利益が犠牲になっても安い方がよいという考え方が標準的でした。しかし、その常識はもはや通用しなくなっています。薄利多売を続け、企業の利益が減ってしまうと、最終的にそのシワ寄せは、その企業で働いている従業員の賃金に及ぶことになるからです。

 
  • 1
  • 2