「チーフ・ラーニング・オフィサー」という新たな役割

 

川良 後藤さんが最近出された『新しいスキルで自分の未来を創る リスキリング【実践編】』(日本能率協会マネジメントセンター)を拝読しました。この中でとても興味を持ったのが、「チーフ・ラーニング・オフィサー」という役割です。初めて聞いたのですが、人事部とは別に、組織のリスキリング推進リーダーみたいなポジションを作るということですよね。すごくいいなと思って。

後藤 日本ではまだ広まっていないのですが、海外の大企業ではこのチーフ・ラーニング・オフィサーを置くのが当たり前になっています。


【チーフ・ラーニング・オフィサーとは】フォーチュン500企業の多くはリスキリング推進のためにChief Learning Officer(チーフ・ラーニング・オフィサー、以下CLO)を設置しています。CLOは最高人材・組織開発責任者と訳され、自社のリスキリング推進責任者の役を担います。

特に自社の新たな事業戦略に基づいて人材開発を行うため、CEO直轄で設置されることもあり、人事戦略を担うCHROやデジタル事業を推進するCDOと協働しながら、自社のリスキリングを進めていきます。
(『新しいスキルで自分の未来を創る リスキリング【実践編】』より)
 
 


後藤 なぜ人事部がリスキリングを主導しないのか? これにはちゃんと理由があります。人事部とはいえ、全ての部門に対して「将来必要となるスキル」を把握するのはやはり不可能です。人事部がデジタル分野に必ずしも詳しいわけでもない。そうすると、人事制度をしっかり理解していて、かつデジタル分野や新しく習得していくべきスキルの分野にも明るい人材が、チーフ・ラーニング・オフィサーとして新たに必要になってきます。自社の新しい成長事業になっていく分野のリスキリングは、経営直轄で進めていく。日本でも間違いなく、こうした人材が必要になってくると思います。

川良 具体的にはどのような人材が、チーフ・ラーニング・オフィサーに向いていると思われますか?

後藤 私が尊敬する日本のチーフ・ラーニング・オフィサーの方は、学ぶのが苦手な方、仕事が山積して新たな学びが後回しになっている方に対して、愛情を持って励ましたり、盛り上げていくのがとても上手な方だったんです。デジタルの分野出身の超一流のエンジニアだったので、現場の技術面にも明るく、そして人を育てる能力も高い。私の中では、そうした専門知識と人間力を兼ね備えた人物像が、チーフ・ラーニング・オフィサーに向いていると考えています。
 

 

『新しいスキルで自分の未来を創る リスキリング【実践編】』著者:後藤宗明 日本能率協会マネジメントセンター 2035円(税込)

AIやロボットなど、テクノロジーの進化と共に、「リスキリング」の重要性が叫ばれている。「新しいことを学び、新しいスキルを身につけ実践し、そして新しい業務や職業に就くこと」が求められる今、リスキリングを実践するためにどうすればいいのか、その現在地から未来までを俯瞰し、豊富な事例を挙げながら具体的なステップを著者が教える。リスキリングは「本来は企業などが従業員(個人)に対して提供するもの」、リスキリングの「年代別スキル習得に向けた注意点」など、これからの働き方を知りたい人に役立つ一冊。本書はリスキリングの「青本」と呼ばれ、「赤本」と呼ばれる前著『自分のスキルをアップデートし続ける リスキリング』は、「読者が選ぶビジネス書グランプリ2023」(主催:グロービス経営大学院、フライヤー)のイノベーション部門賞を受賞した。


イラスト/Shutterstock
取材・文/ヒオカ
構成/金澤英恵