​女性幹部がひとりぼっちで戦う現状を変える第三の方法は


一人でいくつも案件を抱えて、寝ている間もスマホの緊急着信に神経を尖らせなくちゃいけないとイキイキと語る役員を見て「なんでそんなに一人で抱えなくちゃいけないの、業務を分散すればいいのに」と思うような人は、幹部失格なんでしょうか。これまではそうだったのでしょうね。でも危機管理上も、その人が倒れたら3つも4つものプロジェクトが倒れるような仕事の配分は適切とは思えません。これ見直そうよ、とは考えないのかな。

ゴルフも会食も、「もうやめません? 本当に仕事に必要なのか、本当に売り上げにつながっているのか、データとって確認してみませんか? もしかして、単にみんな会社のお金で高級カントリークラブや料亭を楽しみたいだけなのでは」と空気を読まずに言ってみようとは、思わないのかな。そんな青臭いことを考える人は、役員には向いていない? それじゃあ、いつまで経ってもおじさん社交クラブのまんまですよね。そこに紅一点、二点と混ざって「私はこれについていける女」と言っているのでは、昔ながらの名誉男性。まだそれ、やるの? なんのための肩書き、なんのための権限なのかな。ちゃんと手にしたパワーを使って欲しい。現状を変えるために。

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男の牙城で女がひとりぼっちでは戦えないと言うなら、やっぱりクオータ制でもなんでも導入して、どんどん異分子を増やせばいい。従来通りの男社会型役員像にフィットしない人を増やせばいい。ああ、「私が可愛がってる女子の中から後進を育てる」なんて言わないで。それじゃ、あなたのお気に入りしか生き残れないじゃない。大事なのは、女性の人数と、女性の多様性を増やすこと。家族のケアが必要な人もそうでない人も、ぶっちぎりに優秀な人も人並みの人も、いろんな女性幹部がいるのをあたり前にすることです。

話を聞いて、これじゃあ、ぜひ役員になりたいと思う女性も若い人もいないだろうとゲンナリしていたら、参加者から「日本の組織は、今後5年で女性役員2割を目指すなんて呑気なことを言っている場合ではない。トップを女性にすることを考えたことはあるのか。それぐらいしないと劇的には変わらないのでは」という鋭い質問が飛びました。

どこかで、当事者も周囲も諦めているのです。所詮、日本は変わらない。この先10年頑張ってもきっと女性役員は3割にも届かない。まして女性のトップなんて、はるか未来の話。どうせ酒呑童子は倒せないから、せいぜい鬼の飲み会に混ぜてもらう方が現実的だ、と。だからその質問に、ハッとした人も多かったと思います。私は胸を打たれました。この人は本気だ、と思いました。こういう人が組織の幹部であれば心強い。ゴルフと会食に適応せよなんて言葉、誰にも希望を与えないものね。

 


先日、ある医療関係者と話した時のこと。熟年の幹部男性はこう言いました。「私の世代は、泊まり明けにオペでアドレナリンが溢れるような働き方を当たり前だと思ってきた。仕事のことしか考えない、男社会が当たり前で来てしまった。でももうそれではダメなんです。患者さんだって、寝不足の医師に手術されたいはずがないでしょう。変化を加速するためには、古い働き方が体に染みついている私たちの世代は、もう権限を手放さないとならない」と。そういう自覚を持てるリーダーもいるのですね。悲しいかな、遅れてきた少数派である女性幹部は、認められようとするあまり、時として保守的な男性幹部以上に先祖返りすることがあります。孤軍奮闘の不安はいかばかりでしょう。だけど今はどの組織でも、既存のルールを疑うことが不可欠です。慣習と風土を変えるときなのです。

そんなことを言われると、今現在鬼の根城で戦っている人たちは、血まみれの努力を否定された気持ちになるかもしれない。でもその握りしめた刀と盃を捨てる勇気を持って欲しい。それが、令和の鬼退治です。
「血の酒を飲んで鬼を斬るか、酒呑童子の家来になるか」の二択ではないやり方がきっとあるはず。1日も早くしらふの仲間を増やして、鬼の無力化を。「酒呑童子って誰? じゃ、明日があるんで帰って寝ます」と空気を読まずに言う人が、これからのリーダー像です。しらふの改革者を、全力で支えて盛り上げたいですね。

 

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