意外な来訪者


「……!? え? あの……」

家に着くと、玄関の前に黒いコートを着た男性が立っていた。電灯をつけていなかったから、我が家の古い一軒家の軒先が暗く、夕闇に溶け込んでいて、相当近づくまで気が付かなかったほど。

「おお~柚月! 久しぶりだなあ、元気か」

「……え!? 神野先生!? ど、どうしたんですか? 何で? どうしてうちに?」

私は仰天して、軒先に駆け寄った。なんとなつかしい中学校の先生がそこに立っていた。

 

「久しぶりだなあ、元気でやってるか。年賀状、毎年ありがとうな」

「先生、ご無沙汰しています……! どうしたんですか? 今ご勤務されている学校は、この辺じゃないですよね?」

「ああ、普段は中野なんだけど、今、最後の挨拶にあちこち回っててな。こっちにも来てみたんだ、神野はたしか中学校の裏に住んでたなあって」

そういえば去年の年賀状で、先生は今年ご定年だと書いてあった。その挨拶回りに過去教えていた学校を回っているのだろう、律儀な先生らしい。記憶よりも白髪が増えていたけれど、目じりの皺と優しい笑顔は変わっていなかった。

「先生、お時間あるんでしょう? 寒いですからよかったら上がってください、あったかいお茶でも。祖母があと30分くらいでデイケアから戻ってくるんです、それまで、ぜひ」

「おお、それじゃあ一杯だけいただくかなあ、ありがとう。いくら教え子でも女性一人の家に上がるわけにはいかんから、玄関先でいただくよ」

私は玄関の鍵をいそいであけた。こんなに嬉しい、もどかしい気持ちで家に入るのは久しぶりだ。

いつも、おばあちゃんの部屋に駆け込んで、一番に様子を見に行く。祈るような気持ちで。おばあちゃんが、いつもと同じようにそこにいてくれると信じて。今日もまだ、私は一人ぼっちじゃないと、確認するために。

 

懐かしい再会


「柚月、立派になったなあ。きちんと勤めに出て、本当に偉いぞ」

頑として譲らない先生は、亡くなった祖父が凝って造った玄関先に座って、お茶を美味しそうにすすった。30歳にもなると、人から手放しでほめられることも少なくなる。私はくすぐったいような気持ちで、先生の横に並んで座った。

「あのとき、先生が助けてくださったから……。先生がいなかったら、私きっと今のようではなかったと思います。中学生の、あの事故のあと」