同じ事業主体でも施設内の雰囲気が違う?


以前こちらの記事で、後悔しない老人ホーム選びのポイントについて紹介しました。今回は、ある程度候補を絞った後の見学時のチェックポイントについて紹介します。

老人ホームへの入居を検討する際、事前の施設見学は欠かせません。賃貸住宅を借りる際、内見をせずに契約する方がほとんどいないのと同じように、親がこれから長い時間過ごすであろう施設を見ずに決めるというのはもってのほか。見学に行くと、介護スタッフや他の入居者の様子、施設の雰囲気など、ホームページやパンフレットだけでは分かりにくい情報を得られます。

筆者自身は両親を在宅介護で看取り、義理の両親も今のところ在宅介護なので、実はまだ施設にお願いした経験はありません。ただ、コロナ禍で中断されていた私自身の介護サービス相談員の活動が再開されたので、今は月に2回のペースで複数の老人ホームを訪問しています。

施設の環境や利用者の状況を確認する中で思うのは、たとえ同じ事業主体であっても、費用やサービス、雰囲気は全く異なるということ。あくまでも個人の主観ですが、「自分ならここに入りたい」と思える施設はこれまで2〜3箇所しかありませんでした。口コミも参考になりますが、宿泊施設や飲食店を実際に訪れて感じ方の違いを実感するように、やはり自分が目で見て肌で感じるのが一番です。

施設側からも、よほど緊急でなければ見学を勧められると思います。施設側も、納得して入居してもらった方が早期退去の防止になります。見学は、利用者と施設の双方にとってメリットがあるのです。

 

おすすめの見学時間帯はランチ前後


おすすめの見学時間帯はランチ前後です。可能であれば、ぜひ昼食を試食してみてください。施設を移りたい理由の1つに「食事が美味しくないこと」がよく挙げられますが、昼食を共にすることで、味や量の確認はもちろん、食事介助の様子も知ることができます。

余裕がある方は、施設に泊まるショートステイを利用してみてはいかがでしょうか。実際に宿泊することで、日中だけでは見えてこない夜の介護体制なども確認することができます。

また、施設の良し悪しを判断する1つの目安として、ご意見箱の設置があります。利用者や家族などから提案、意見、苦情などを募り、施設運営の質の向上を目的とするものですが、これが見当たらないところは意識が低いという指標にもなり、おすすめしません。ぜひ確認してみてください。


目で見て確認したい7つのチェックポイント


見学をする際のチェックポイントは、大きく2種類あります。1つ目は、実際に目で見て確認するもの(視覚ポイント)で、立地・環境・雰囲気、設備面などです。

①施設職員の様子:入居者への声掛けや言葉遣い、ケアの方法や接し方、挨拶や笑顔などの表情。

②入居者の生活状況:談話室などでの交流の有無、服装や爪、頭髪などの身だしなみは整っているか。

③施設内の衛生環境:建物全体の老朽化、廊下・食堂・共用スペースの清掃状況(ゴミや食べかすが落ちていないか)、整理整頓状況(モノの散らかり具合)、トイレ汚れ、浴室汚れ、臭い。

④安全面:手すりの位置やつかまりやすさ、バリアフリー環境、エレベーターの広さ(ストレッチャーは乗せられるか)と台数、非常口と非常時の避難経路。

⑤居室の快適さ:広さ(持ち込み家具のスペース)、収納の有無、ナースコールや人感センサーの配置、手すりの設置、トイレの広さ、洗面台の高さ。

⑥その他設備の充実度:共用スペースの快適さ(ソファや椅子、テレビの配置など)、入浴設備(機械浴対応)、機能訓練室、理美容室、カラオケルーム、図書コーナー、家庭菜園コーナーなどの共有設備や屋上やバルコニーに出られるかなど、施設独自の設備。

⑦周りの環境・アクセスの良さ:最寄り駅からの距離、坂道や階段などの道路状況、住環境(騒音や日当たりなど)、買い物できる場所、公園・散歩コース。

聞いて確認したい11のチェックポイント

次にチェックしたいポイントは、施設職員に聞いて確認するもの(聴覚ポイント)で、体制、費用、契約などがこれにあたります。

①経営理念など大切にしている考え:経営理念や施設長の想い、大切にしていることがサービスに反映されるので、こちらも要チェック。具体的な取り組みや自慢できるような改善事例など。

②職員の定着率や研修状況:平均的な勤続年数や定着率。研修などで、知識の向上や事故防止に努めているか。介護士の離職率は全国平均で年間14〜15%。「離職率が高い施設=居心地が悪い」という判断材料にも。

③人員配置や保有資格:ここ数年の入居率、入居者1人当たり何人の職員が対応するのか、働いている職員の数、どんな職種の方が働いているか。なお、介護保険法では「入居者3人に対して1人の介護職員または看護職員を配置」と定められており、これを上回ると手厚い。

④医療サービスの質:日々の健康管理、リハビリ支援の充実度、医療機関との連携、終末期医療・看取り介護の実施。

⑤食事形態:月間のメニューをはじめ、個別食や治療食への対応、調理は施設内か外部業者委託か。

⑥ケア体制:どのようなケアを行っているか。「①身体状況や介護度が近い10人ほどが同じスタッフからケアを受けるユニットケア」「②身体状況や介護度が近い人が各階に分かれてケアを受けるフロア分けケア」「③入居者を区分けしない混在型ケア」「④認知症専門の認知症ケア」など、ケア体制は多岐にわたる。

⑦入居条件と退去条件:要介護度、持病や病歴、認知症の有無、必要な医療対応。条件が合わないとあとから退去を求められることもあるため、事前に状態を伝えた上で確認しておく。

⑧費用:契約方式やプランごとの初期費用、月額費用、固定費用に含まれる内容とその他の費用(医療費やレクリエーション費、必要な日用品費など)。

⑨入居一時金の償却方法:初期償却と償却方法・期間、入居キャンセルの返金の有無、90日以内に退去した際の返金額(クーリングオフ)。

⑩保証人の責任範囲:連帯保証人が対応する範囲、役割。

⑪その他:行事やレクリエーションの内容と頻度、面会時間、事故発生時の対応や損害賠償。

できれば見学は2~3人で

見学に行くときは、必ず予約をしてください。突然訪問しても、担当者が不在だったり別の都合がある場合は、満足のいく説明を受けることができません。見学時間は1~2時間のところが多く、食事とレクリエーションを体験したい場合は、10時半〜12時半、12時〜14時などが候補となります。

見学の際にはチェックリストや質問メモを持参し、気になるところはメジャーで測ったり、撮影も忘れずに。また、1人では気づきにくい点も、2~3人で行くと視点が広がります。兄弟姉妹に声をかけたり、介護経験のある友人に同行をお願いするのも良いと思います。

本人はある程度理解できる状態であれば参加した方が好ましいですが、体調が芳しくない場合は無理する必要はありません。まずは家族が見学して目星をつけて、気になった施設があれば2回目の訪問でご本人も一緒に行ってみてはいかがでしょうか。

今回挙げた見学時のチェックリストは、こちらでダウンロードできるようにしています。施設選びに失敗しないよう、こちらのリストを参考にしながら、有意義な施設見学にしてください。

実際に見学してみて高ポイントでいいなと感じたところは、職員体制が充実していたり、食材にこだわりがあるなど、何らかのプラスポイントがあるはずです。ある程度満足感のある施設は、都市圏だとひと月あたり30〜50万円くらいかかることも。譲れるところ、絶対に譲れないところを選別しながら、予算内で気に入った老人ホームに巡り合えると良いですね。


構成/渋澤和世
取材・文/井手朋子
イラスト/Sumi
編集/佐野倫子

 

前回記事「確定申告で手取りを増やす!親の介護費用、これってどこまで医療費控除に入るもの?」>>

 
 
 
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