情報伝達の妨げにならない、報道現場のドレスコード

安藤さんがテレビの世界に入ったのは、上智大学在学中のこと。アルバイト先でテレビ関係者の人に声をかけられたのがきっかけでテレビ業界に入り、その後、報道番組に起用されます。当時の報道の現場は完全に男社会。女性がどんな服を着て、どう振る舞えばいいかを教えてくれる人はおらず、試しに華やかな服を着ると、「チャラチャラするな!」と怒られる理不尽さを味わってきたといいます。

「テレビという画角の中で、自分がどういう風に見えていて、どう正しく情報を伝えるか、ということはものすごく考えました。ネイビーのジャケットや白いシャツなど、情報伝達の妨げにならない自分でありたかったんです」

安藤優子さんといえば、ショートカットでジャケットをキリっと着こなす姿が頭に思い浮かびますが、これは、報道の現場で、さまざまな制約がある中から培われてきたものでした。

 

「はじめて黒のテイラードジャケットとパンツ、白いTシャツを着た時に、『なんてそっけない格好をするんだ!』と言われたのを今でも覚えているのですが、今なら、こうしたミニマムな装いをする人は多いですよね。当時、無駄を削ぎ落とした装いをしていたのが、ジル・サンダーさんでした。ご本人にもお会いしたことがあるのですが、『無駄がなければないほど、女性はきれいに見える』というポリシーがあり、一方で、フォルムにまで気を遣うことで女性が素敵に見える服をデザインされてきました。私も毎日厳選してフィッティングして、神経を尖らせて、繊細に着るものを準備してきました。報道の現場にいた30年が、自分にとって何が一番自分らしいかを問い詰める時間でもありました」

 


報道の現場では、突発的な出来事に対応しなくてはなりません。テレビ局には何があっても対応できるスーツを必ず用意しておき、外国の要人と会う時には、どういう場所でどんな目的があるのかを熟慮して、服を決める。トレードマークのショートカットも、髪が洗えるような環境ではない海外取材に行くことも多かったため、「楽だから」とバッサリ切ったのが始まりでした。

「シチュエーションを考えて着るものを選ぶという癖がついたので、プライベートでも、今日はこういうところに行って、こんな人と会う、相手の気持ちを考えて、明るい雰囲気がいいいのか、抑えめのほうがいいのかを決める。服に“ストーリー”が感じられるようなコーディネートをするようになっていきました」