映画の中で描かれる究極にインクルーシブな組織


山添くんも、藤沢さんと同じく、終わりの見えない闇の中にいます。医者から少しずつ慣らしていけばいいと言われ、恋人と共に電車に乗ろうとするも、ドアの前まで来て、結局断念してしまいます。そんな、一度は社会からはじかれてしまったふたりを支えるのが、ふたりの勤務先、栗田化学の社長や社員達です。

©瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会

藤沢さんが、PMSでイライラして山添くんにつっかかった時は、他の社員がふたりをさっと引き離し、それぞれをなだめます。山添くんがパニック発作を起こした時も、社員たちが阿吽の呼吸の連携プレーでフォロー。藤沢さんと山添くんが取り乱したり発作を起こしても、驚いたり煙たがったりせずに自然にサポートできる。栗田社長をはじめ、みな温厚で、助け合い支え合う家族のような共同体が出来上がっています。こんなインクルーシブな会社があったら、当事者がどれだけ生きやすいだろう、と思わずにはいられません。さまざまな事情を抱えた人が、“そのままでいられる”って、とても難しく、そして大事なことだと思います。
 

 


映画研究者の三浦哲哉氏と映画監督の濱口竜介監督、三宅唱監督による鼎談で、本作の監督、三宅唱さんは栗田化学について次のように述べています。
 


こんな会社無理でしょと思う気持ちもわかるし、瀬尾まいこさんも小説についてそういう批判を受けたりもすると書いていました。シンプルに言えば、こうありたいと切に、普通に思いますよね。現実に対して悲観的にならざるをえないから。ただ事実として、こういう会社や共同体は実在します。日本には少ないけど他の国には間違いなくある。あるというか、正確に言えば、こういう会社であろうと努力してキープし続ける会社がある、ということなので、放っておけばなくなるし生まれないものだと思います。

かみのたね 特別鼎談 三宅唱×濱口竜介×三浦哲哉 偶然を構築して、偶然を待つ──『夜明けのすべて』の演出をめぐって
 


三宅監督が言うように、現実は、こんな企業存在しないのでは、とも思ってしまうような社会なのかもしれません。だからこそ、栗田化学のようにさまざまな人を包摂するような企業、組織が増えて欲しいと強く思うし、そんな組織であろうとする努力が必要なのだと思います。