2021年という日本の現在地においても、貧困はもはや他人ごとではなく、いつ誰の身に降りかかってきてもおかしくない問題といえるかもしれません。そんな中でも自分ができることを考え、何らかの形で支援を行なっているという方も多いのではないでしょうか。しかし、ブレイディみかこさんは本書の中で、『わたしは、ダニエル・ブレイク』を撮ったケン・ローチ監督の、こんな言葉を引用します。

 

同作が日本で公開されたとき、配給元を中心とする関係者たちが貧困者支援団体を助成するための「ダニエル・ブレイク基金」を立ち上げ、劇場公開鑑賞料の一部が寄付された。これを受け、ケン・ローチ監督は、「ひとつだけ付け加えたいのは、ともかくチャリティーは一時的であるべきだということ。ともすると、チャリティーというものは不公正を隠してしまいがちだが、むしろ不公正の是正こそが最終目的であることを忘れてはならない」という声明を発表した。

つまり、フードバンクや慈善事業は、貧困者を一時的に助けるための緊急措置として存在すべきなのであり、自分が映画を撮り続ける目的は、人助けを推奨するためではなく、貧困を生み出す政治や制度そのものを変えることなのだと強調したのである。

 


不安が蔓延するコロナ禍でも「お互い様」や「助け合い」の精神が機能する日本。そんな環境に甘んじていた筆者はブレイディみかこさんのエッセイを通じ、“フードバンクが当たり前でない社会”を作るのは私たち大人なのだ、と自覚すると同時に、相互扶助の精神を美化し、その場しのぎの寄付や賛同に自己満足し、政治や社会のしくみに対して“事なかれ主義の傍観者”となっていた浅はかな自分を、猛省せずにはいられませんでした。

ブレイディみかこさんが鋭い視点と本音でイギリス社会の実情に切り込む本書は、「日本はどうか? そして私はどうか?」について、自分ごととして考える大きなきっかけを与えてくれる一冊でもあります。

※ご紹介したエッセイは「群像」2020年1月号に掲載されたものです。

著者プロフィール
ブレイディみかこさん:
ライター・コラムニスト。1965年福岡市生まれ。福岡県立修猷館高校卒。音楽好きが高じてアルバイトと渡英を繰り返し、1996年から英国ブライトン在住。ロンドンの日系企業で数年間勤務したのち英国で保育士資格を取得、「最底辺保育所」で働きながらライター活動を開始。『子どもたちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所から』(みすず書房)、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)など著書多数。

 

『ブロークン・ブリテンに聞け』
著者:ブレイディみかこ 講談社 1350円(税別)

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』の著者が贈る、時事エッセイ集。EU離脱、広がる格差、そしてコロナ禍と、揺れ動くイギリス社会の現在を、ブレイディみかこさんならではの視点で描き出します。政治・経済・思想から、王室・音楽・アートまで、本書で取り上げるテーマは多種多様。ひとつ読み進めるごとに、立ち止まって考えを巡らせたくなる、そんな一冊です。


構成/金澤英恵

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