2019年5月9日、2020年東京オリンピック公式チケットの抽選申し込みがスタート。イベントに参加した渡辺直美さんと、自転車BMXフリースタイルの中村輪夢選手。写真:つのだよしお/アフロ

表現活動にはそれにふさわしい場所というものが存在します。限定された環境下であれば、社会的規範を外れた表現も一定程度までは許容されてよいでしょう。しかしながら、オリンピックというもっとも普遍性が求められるイベントにおいて、外見を揶揄する演出が許容されるわけがありません。

 

一部からは、佐々木氏の企画はLINE上でのアイデアであり、プライベートなものだとの意見も出ているようですが、オリンピック以上に公的なスポーツイベントなど存在しません。そこで行われる業務は企画段階であってもすべてパブリックであるべきです(オリンピックについては、政府と国民が一致団結して成功させるべきだと主張している人も多いわけですから、そうであればなおさらです)。

今回の渡辺さんの対応は、ビジネス的な観点でも注目に値すると筆者は考えています。

かつての芸能人は、政治的な発言はタブー視されており、自身の考えを公にすることはほとんどありませんでした。海外でも程度の差こそあれ、似たようなものでしたが、近年は、自身の思想信条を明確に主張する芸能人が増えてきました。これについては様々な意見があると思いますが、こうした芸能人が増えているのは事実であり、ネットという新しいツールが普及している以上、この流れは不可逆的と考えるべきです。

いくらエンタメを仕事にしているといっても1人の人間ですから、意見を言う自由は当然、ありますし、それがもたらす結果責任については自身で負うわけですから、発言そのものをやめさせることは誰にもできません。

そうなってくると、明確な思想信条を持つ芸能人であれば、自身の発言が、ビジネスにも有効に作用するよう、タイミングや内容を工夫するのは当然のことでしょう。

渡辺さんは、4月から活動の拠点をニューヨークに移すと表明しており、今後はグローバルに活動する方針とのことです。渡辺さんが得意とする芸のひとつは、ビヨンセさんや、レディー・ガガさんのモノマネですから、国籍を問わない汎用性があります。しかも、レディー・ガガさんは渡辺さんのモノマネを高く評価しているそうですし、渡辺さんが契約した米国のエージェントはビヨンセさんのマネジメントも担当しているそうですから、完全にご本人のお墨付きです(ちなみにビヨンセさんとレディー・ガガさんは、政治的発言を積極的に行うことでも知られています)。

渡辺さんにとっては、まさにグローバル市場に打って出ようとするタイミングであり、一連の状況を総合的に考慮した上で、YouTubeで発言したのだとすると、これは新しい時代を象徴するしたたかな戦略ということになるでしょう。


前回記事「「うっせぇわ」と尾崎豊「卒業」で描かれる“本当の支配者”は誰なのか」はこちら>>

 
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