日々の過ごし方も治療も人それぞれ


こうして、患者さんの闘病生活が始まりました。週によっては、抗がん剤の投与で毎日顔を合わせることになりました。

「抗がん剤がある日は仕事を午前中で切り上げなくちゃいけないけど、その分午前中に集中してやるから、仕事量は抗がん剤のない日とそんなに変わりませんね」

そんな風に笑顔で話してくれました。また、このようなことも尋ねてくれました。

「今まで仕事が忙しくてサボっていたダンスを妻と再開したいのですが、貧血もあるしやめておいたほうがいいですか?」

私はこう答えました。

「そんなことはないです。ご自身の体のことはご自身が一番よくわかっているはずですから、体と相談しながら、ぜひダンスも楽しんでください。いつか私にも見せてくださいね」

こうしてダンスも再開されました。がんの治療中というと、「仕事をやめるべき」「体を休めることに努めるべき」といった声も聞こえてきそうですが、必ずしもそんなことはないのです。もちろん、仕事をやめたほうがよいと考える人、やめざるをえない人もいるかもしれません。しかし、そうではない人もいて、がんの治療も、人それぞれです。

死の直前まで仕事を続けた患者が教えてくれた「自分らしい生き方」とは【医師・山田悠史】_img0
 

冬の寒い時期に治療を始めましたが、「治療がうまくいかなければ次の桜を見るのは難しいかもしれません」と伝えていました。

しかし、患者さんは桜も、秋の紅葉も見て、年越しもしました。

 

「もう命がないものだと思っていたから、毎日が本当に幸せです。ダンスもまだ続けています」

患者さんとの2回目の冬に、そう教えてもらいました。患者さんは希望通り、亡くなる前日まで仕事を続けられました。

患者さんの死後、奥様が「本当に最期まで好きなことを続けられて、ダンスまでできて、幸せでした」と悲しみの中にも悔いはないというようなよい表情をされていたのが印象的でした。

患者さんが「生きがい」とともに幸せな時間を過ごされていたことを目に焼き付け、多くのことを学びました。人生は選択の連続です。私自身、岐路に立たされ、迷うことが何度もありましたが、これほど大きな決断というのはなかったと思います。

「何が大切か」を知っている人の強さを教えてもらった時間でした。

治療の選択は、人生のあらゆる選択と同様、その人の生き様です。だからこそ自分にとっての「生きがい」を認識しておくことは、自分自身にとっても、私たち医療者にとっても重要であり、選択の助けになるのです。

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前回記事「人生の最期について家族と話したことはありますか?患者も医療現場も“準備不足”という現実」はこちら>>


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構成/中川明紀
写真/shutterstock