無人になった実家が廃れていく
ひとりで実家を片付ける大変さ


昨年1年間は、毎月1回熊本の実家に帰り、少しずつ家の掃除や片付けをしていた如月さん。夏に庭に雑草が生い茂り、庭木が隣の家まではみ出しているのを見て、今までは両親がきちんと整えていたことに気付かされたそう。

 

「父には何でもため込む癖があり、たくさんのモノがありました。毎月通って少しずつ片付けようとしましたが、1年が過ぎて、無理だということに気づきました。いつか本当に全部片付けなくてはいけない時が来るので、その時にまとめて業者さんに頼もうと決めました。これからは捨てることよりも、とっておくものを分ける作業に専念します」

それに伴い、今年は帰省の頻度も年3、4回にすることに決めた如月さんですが、実はもう一つ理由がありました。

 

「誰もいない実家に一人でいると、夕暮れがすごくさびしいんです。日が暮れていくのは、温かい家族の時間が充実していくことでもあるのに、それがゼロになってしまったからです。1年通って、両親がいない実家の記憶が積み重なってきたのですが、私にとって実家は父と母がいて、帰ってくる私を迎えてくれる場所。これ以上、無人の実家の記憶に塗り替えたくないと思うようになったんです」

 


楽しく生きていた証「理想の死に方」に救われて


話をすると言い合いになるからと疎遠になり、結果的に父が一人でこの世を去ってしまったとなると、自責や後悔の念に苛まれてもおかしくはありません。如月さん自身もそうでしたが、1年が過ぎた今、「あの時に戻れたとしても同じ」と感じています。

「あれが、父と私の親子の距離感だったと思うんです。もっとコミュニケーションをとっておけばよかったと思っても、距離感はそう変えられるものではないですから」

家族が揃っていた頃の思い出がつらくてずっと見られなかったアルバムも、最近になってようやく開くことができるようになったという如月さん。そこには、家族3人の笑顔や、如月さんが生まれる前の若い父の姿などがありました。

 

「父が死んでしまったという事実が私にとって大きすぎたのですが、やっとアルバムを開けるようになって写真を見ていると、『なんだこの人、84年間楽しく生きてきたじゃない』と思えてきたんです。これは大きな発見でした」

また、如月さんの記事が日経ビジネス電子版にも掲載された時、「理想の死に方だ」といったコメントがいくつか書き込まれているのを見つけたのも、新たな発見だったといいます。

「誰にも迷惑をかけず、病院の世話にならず、自分の部屋で死んでいくなんて理想、というコメントがいくつもあって、そういう見方があるということにも救われた気がしました」

 

今はもう、実家には誰もいない。母は施設で元気に暮らしていても、以前のようなコミュニケーションを取るのは難しい。だからこそ、他の人にはもしも親が健在なら一つでも多くの思い出を作ってほしい、と言います。

「親はいつか必ず亡くなります。コロナで難しいとは思うのですが、離れているならオンラインで話すだけでもいい。ぜひ、写真を撮ったりオンラインで会話を録画するなどして意識的に思い出を残しておいてほしい。それがあとできっと救いになりますから」
 

<書籍紹介>
『父がひとりで死んでいた 離れて暮らす親のために今できること』

著 如月サラ(日経BP)

2021年の正月が明けて間もなくのこと。
遠く離れた実家で父が孤独死していた、という連絡を著者は受けます。
警察による事情聴取、コロナ禍の中での葬儀、実家の片付け、残されたペットの世話、
さらには認知症になった母の遠距離介護まで--。

父を亡くしたショックに立ち尽くす間もなく、突如直面することになった現実をひとりで切り抜けていく日々と、心の動きをリアルにつづったエッセイ集です。

「日経xwoman ARIA」で連載中の大反響のコラムを書籍化するにあたり、エッセイに加えて"離れて暮らす親のために今できること"という観点から「見守りサービス」や「家族信託」に関する情報コラムを新たに書き下ろすなど、大幅に加筆しました。

 

如月サラ(きさらぎ・さら)
熊本県出身。エディター、エッセイスト。大学卒業後、出版社で女性誌の編集者として勤務。50歳で退職し、大学院修士課程に入学。中年期女性のアイデンティティについて研究しながら執筆活動を開始。6匹の猫たちと東京暮らし。

 

写真/如月サラさん提供
取材・文/吉川明子
構成/川端里恵



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