「男の子でちょうど良かった。ちょっと古いのもあるけど、まずは三ヵ月サイズまで」

円華さんは三歳と一歳、二人の男の子を持つ母でもある。

私が妊娠したことを告げると「ベビー服、是非もらって」とすぐに連絡をくれた。仕事は後付けで、今回のメインは服の受け渡しだ。巨大なショッピングバッグにぎっしり詰まった小さな洋服に目を丸くする。

 

「こんなにたくさん、ありがとうございます! 実はまだ何も用意してなくて」

「七ヵ月目でしょ。私もベッドとか探し始めたの、八ヵ月入ってからだった――なんて、全然自慢にならないね。でも愛さえあればどうにかなるから」

細身なのにボリュームあるラーメンをぺろりと平らげ、涼しい顔でキザな台詞が吐ける円華さんが羨ましい。「マタニティ服はもう処分しちゃって」と謝られるが、もし頂いたところでサイズ的にアウトに違いない。

「マタニティ服、どこで買いました? 近所では全然見つけられなくて」

「私はネットで買ったよ。フランスは本当に種類が少ないよねぇ」

パリで親しくしている人は片手で数えられるほどしかいないが、そのなかでもフランスでの妊娠出産経験者は円華さんしかいない。貴重な体験談を聞くのも今回の目的のひとつだった。

「市とCAF(社会保障制度のひとつ、家族手当部門)への妊娠登録はもうしたよね。保育園探しも始めたほうがいいよ」

「パリも東京と同じで、入園競争率は高いって言いますもんね……無痛分娩はどうでした? 本当に痛くなかった?」

フランスの出産は無痛分娩が大半だ。希望制ではあるが、私は担当医に尋ねられて「ウィ!」と即答した。産みの苦しみなんて味わわなくていい。しかも無料。断る筋合いがない。

「楽だったよぉ。麻酔が効いたら昼寝もできたし、軽食も食べられて、余裕をもって出産に臨めた」

「じゃあ最初の陣痛さえ乗り越えたら、産むのはそんなに大変じゃないんですね⁉」

「私は安産だったから、皆がそうとは言えないけど……あ、でもひとつ困ったことがあった。一人目の時は麻酔が効きすぎたのか〈力む〉感覚がわからなかったの」

陣痛の波がくるのは感じられても、押し出そうにもお腹に力が入らず、助産婦が足元に大きな鏡を置いてくれたという。

「赤ちゃんの頭が見えてきて、助産婦の『Allez allez(いけいけ)』ってかけ声に合わせて夢中でひねり出したね」

「まじっスか……」

産む瞬間、見たいような見たくないような……想像すると身震いが起きた。