「私なんかじゃ釣り合わない」と自分を卑下してしまい、好きな相手に対して勝手に“格差”を抱いてしまっていたあの頃の私……。そんな青春時代のほろ苦い記憶を彷彿させるのがこちら『薫る花は凛と咲く』。

だけど、ほろ苦い記憶だけじゃなく、それらを当時の懐かしい思い出として優しく昇華してくれる。そんな優しさとあたたかさに満ちた作品でもあるのです。

『薫る花は凛と咲く』(1) (講談社コミックス)


底辺男子校のお隣は名門お嬢様学校

 

泣く子はもちろん、その辺りの不良をも黙らす強面フェイスを持つ男・紬凛太郎(つむぎりんたろう)。彼が通う、通称“バカが集まる底辺高”と呼ばれる千鳥高等学校の隣には、皮肉なことに彼らとは正反対の世界である、名門お嬢様学校の私立桔梗学園女子高等学校が並びます。

 

桔梗の女生徒が落としたハンカチを拾って声をかけただけなのに、彼女たちは千鳥の生徒をまるでゴミを見るかのような目で蔑みます。学校は隣同士。物理的な距離はとても近いのに、心の距離はとてつもなく遠く感じさせます。

 
 

運命的な出会いから始まる“学校格差ラブコメ”


そんな桔梗と千鳥の生徒たちのいがみ合いを傍目で見ていた凛太郎ですが、実家のケーキ屋を手伝っていた時に運命的な出会いを果たすのです。

 

その小柄な容姿からは想像もできないほど、たくさんのケーキを頰張る彼女の名は、和栗薫子(わぐりかおるこ)。

凛太郎は、店番をする度に和栗さんと顔を合わせるようになりますが、自身の強面な顔立ちが彼女を怖がらせているのではないかと気にして、なかなか素直に会話ができない日が続きます。

ですが、そんな彼を見た目で評価せずに真っ直ぐに向き合う和栗さん。

 

さらに、彼女が不良に絡まれているところを凛太郎が助けたことをきっかけに、2人の心の距離は一気に近づいていくのです。

 

このまま晴れて恋人同士に……! と思いきや、そうはいかないのが甘酸っぱい青春そのもの。実は和栗さんは桔梗の生徒。千鳥の凛太郎からすると和栗さんは高嶺すぎる花だったのです。

 


「俺なんかが……」凛太郎の姿が青春時代のほろ苦い記憶を甦らせる


どこからどう見ても良い感じの凛太郎と和栗さん。ですが、ここから先は桔梗と千鳥の間に根付く“学校格差”そして凛太郎の「俺なんかが……」がという劣等感が2人の恋路を阻んでいくのです。

 

この自信なさげな凛太郎の姿を見ていると、「私なんかじゃ釣り合わない」と自分を卑下して諦めてしまった恋路の数々を思い出してしまいます。このままだと、ほろ苦い思い出博物館にでも来てしまったような気分ですが、そんなしみったれた気持ちをかき消すのがヒロイン・和栗さんの存在。

 

 

周りから何を言われようと、自分の目を通してみた凛太郎を信じ、真っ向から向き合う和栗さん。そんな彼女の姿を見ていると「私もこれくらいの強さが欲しかった」という憧れと共に、「もし一歩を踏み出していたら違う未来があったかも」と懐かしい記憶として想いを馳せてしまいます。

さらに、和栗さんに影響されて“学校格差”や自分が勝手に作り出した劣等感という殻を破っていく凛太郎の姿を見ていると、思わず当時の自分を重ねて「頑張れ!」と応援せずにはいられません。

 


いつの時代も私たちを夢中にさせる、格差恋愛モノ


『花より男子』『君に届け』……。はたまたもっと遡ると『ロミオとジュリエット』など、格差恋愛モノは、いつの時代も私たちを魅了してきました。愛の力で数々の障害を乗り越えていくその過程には、何ものにも代え難いドラマチックなストーリーに溢れていますし、そんな2人を応援するサブキャラクターには人間的な魅力がたくさん詰まっています。

『薫る花は凛と咲く』で、2人の恋路を阻むのは“学校格差”。なんともリアルで、いつの時代も蔓延っていそうな要素を題材とした格差恋愛モノです。凛太郎と和栗さんの関係はもちろん、お互いの学校の友人たちが関わっていくことで絡み合っていく、心あたたまる人間ドラマにもぜひ注目してください。

 

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『薫る花は凛と咲く』
三香見サカ(著)

とある場所には、隣接するふたつの高校がある。バカが集まる底辺男子校・千鳥高校と、由緒正しきお嬢様校・桔梗女子。強面で物静かな千鳥高校2年・紬凛太郎は、実家のケーキ屋の手伝いの最中にお客で来ていた少女・和栗薫子と出会う。薫子との時間を心地よく感じる凛太郎だったが、彼女は隣接しながらも徹底して千鳥を嫌う桔梗女子の生徒で……!? “近くて遠い”二人が織りなす、青春彩る学園物語!!


<作者プロフィール>
三香見サカ

2020年『罪因事変』で 第104回週刊少年マガジン新人漫画賞にて特別奨励賞を受賞。2021年から「マガジンポケット」にて『薫る花は凛と咲く』連載中。