社会復帰した後に、高次脳機能障害に気づく可能性は?



「軽い脳卒中で、高次脳機能障害に気が付かないまま社会復帰する方もいらっしゃいます。回復期のリハビリ病院でも詳しい高次脳機能の評価ができる病院はまだ限られています。また、入院生活では、看護師さんの手厚いサポートがあり、刺激もコントロールされている環境なため、自分で何ができないかを体験できる機会も限られます。しかし、いざ仕事となると認知機能が落ちているとミスが出てきて、『えっ、どうして?』と困惑しはじめます。もしも本当に仕事に支障が出ていると気が付いたら、リハビリテーション病院の外来に相談してほしいです。

各都道府県に臨床心理士の在籍する国や地方公共団体が運営する『リハビリテーションセンター』があり、相談窓口がありますので、調べてみてください。評価を受けることで、「あ、だからか」とご自分の現状を理解して、気をつけて生活できます。場合によってはそのまま外来に通うことも可能です。当院でも、コロナ前は入院と外来の患者さんの割合は半分ずつでした」(山本先生)

ただし評価のためのテストが本当に多いので、私が入院中は1回1時間×週2~3回を1ヵ月かけて行いました。病院によっては、外来で朝から夕方まで1日かけて行ったり、体力やスケジュール的に厳しい場合は半日で2回に分ける、週1回1時間で外来に2ヵ月かけて通うなど選択肢はあります。

 

「復職されて、ある程度はできているけど、何かおかしいと会社の方に付き添われて来られた方がいました。評価で『疲れやすい』とわかったので、仕事中に1時間に1回は休憩する。自分で疲れていることに気が付かないので、アラームをかけて必ず休憩する。それだけでミスが少なくなりました。無理さえしなければ、能力的にはあまり問題がないという方もいます」

これは高次脳機能障害に限らず言えることで、無理は禁物です。効率や能力が下がるだけなく、心が折れ、体を壊してしまうリスクがあるので、私も我慢はしないよう意識するようになりました。リハビリはソフトランディングが大事です。

「脳のトラブルもケガみたいなもの。トラブルが発生してしまったらあとは治していくだけです。高次脳機能障害をネガティブにとらえて、ずっと苦しむ方もいらっしゃいます。
そして、ご家族はよくなってほしいと期待が強くなり、厳しくなったり、逆に手とり足取り過保護になったり両極端になりがちです。お気持ちはわかります。我々は外来ではご家族のお話も伺い、受け入れていただけるタイミングでいろいろな方法をご提案しています。悩まれている場合は、専門家の力を借りるのもひとつの方法です」

現在も私は人に迷惑をかけてしまうことに、ネガティブな気持ちが生まれ、落ち込むことがあります。そんな時には山本先生に相談しています。

「障害のあるなしに関係なく、私もそうですが、みんな生きてればどこかで誰かに迷惑をかけているので、お互い様という気持ちで、周囲は温かく見守ってくれていると思います」といったアドバイスに励まされています。


【漫画】「健診受けてるから大丈夫」が命取りに...突然の心肺停止から搬送されてどうなった
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心肺停止から目覚めたら凶暴化...「せん妄」とは違う「通過症候群」とは_img5

『山手線で心肺停止! アラフィフ医療ライターが伝える予兆から社会復帰までのすべて』
熊本美加・著 上野りゅうじん・漫画 鈴木健之・監修 1320円 講談社

健診で分からない「隠れ心臓病」に要注意。日本では7分に1人が心臓突然死で亡くなっているという現実がある。

元気でバリバリ働いていたアラフィフの医療ライターがある朝突然、山手線で心肺停止に。打ち合わせに向かう車内で倒れ、浜松町駅で駅員によるAED、心臓マッサージを受け、搬送された病院で人工心臓につながれた。

奇跡的に一命を取りとめたが、高次脳機能障害により注意力、記憶力、感情のコントロールに問題が生じ、リハビリ病院へ。生死を分けたのは何だったのか。そのとき、仕事は? 家族は? そして飼い猫は?

Twitterで何度もバズった「ウェブマガジンミモレ」のルポをベースに、予兆リストや胸の痛みの種類、生死を分ける心臓マッサージなど、著者が読者の皆さんに伝えたいことを新たに執筆、再構成した。実用書でありながら、『女はいつまでおんなですか? 莉子の結論』『ママのうつ病をなめてたら、死にそうになりました』で知られる上野りゅうじんがマンガを担当。



熊本 美加
東京生まれ・札幌育ち。医療ライター、性の健康カウンセラー。大学卒業後、広告制作会社などを経てフリーライターに。更年期ウイメンズ&メンズヘルス、性感染症予防・啓発、性の健康についての記事を執筆。2019年に電車内で心肺停止で倒れ救急搬送され蘇る体験以後、救命救急、高次脳機能障害、リハビリについても情報発信中。



上野りゅうじん
2017年「うちのへそ曲がり!!」でデビュー。ママスタセレクト漫画・記事挿絵などを担当。『オカン DAYS』(講談社)、『ママのうつ病をなめてたら死にそうになりました』(ぶんか社)が発売中。漫画で参加した『マンガでわかるポイント投資 100ポイントあったら「株」を買いなさい!』(安恒理著、講談社)、『女はいつまで女ですか? 莉子の結論』(KADOKAWA)がある。


漫画/上野りゅうじん
文/熊本美加

 

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第1回「山手線で心肺停止!50代医療ライターが見逃した2週間前の予兆「毎日同じ時間に、同じ場所が」」>>

第2回「山手線で心肺停止!救急隊到着までの20分、私の命を繋いだもの「下がるのは“蘇生率”だけじゃなかった」」>>

第3回「「ワシは面倒見れん」「お姑さんの介護が...」昏睡状態の50代女性の横で始まった家族会議が超シビアだった話」>>

第4回「看護師に掴みかかり「ここから出してよ!」心停止で昏睡状態に陥った私が、目覚めたら凶暴化していたわけ」>>

第5回「簡単な「文字の並び替え」が解けない...病気や事故が引き起こす「高次脳機能障害」とは」>>

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第8回「更年期だと思っていたら「隠れ心臓病」。50代女性が見逃した危険な胸の痛みとは」>>

第9回「山手線で心肺停止してから、高次脳機能障害に。職場復帰までにやったリハビリのすべて」>>

 
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