推しにハマる気持ちの流れが美しい文章で綴られ大人にも深く刺さる一冊


ーーそんな本好きの宇垣さん。同じく本好きがとても多いmi-mollet読者の皆さんに最近読んだおすすめの作品をぜひ教えてください。
 

「推し」がいる人にはわかるはず、と思えるこの気持ち
中山可穂 著
『ダンシング玉入れ』

宇垣:まず1冊目は、中山可穂さんの『ダンシング玉入れ』です。著者の中山可穂さんは、ものすごく静謐な、ガラス細工のような文章を書く方。ちょっと圧倒されるような、クラクラするような色香が漂ってくる文章が素敵なんです。その中山さんが「宝塚」をモチーフに書いた作品が、この『ダンシング玉入れ』です。

 

これ、お好きな方ならわかると思うのですが、宝塚歌劇団が10年に1回開催している運動会の種目のひとつなんです。文字通りダンスをしながら玉入れをするのが「ダンシング玉入れ」。中山さんは宝塚がお好きなので、他にも『男役』『娘役』『銀橋』という宝塚シリーズがあるのですが、この作品は、それらのスピンオフ的な位置付けでもあるのかな?

それで何が面白いかというと、この作品、実は主人公が殺し屋という「ノワール」、つまり犯罪小説なんです。その殺し屋が、ある宝塚のトップスターの暗殺を依頼されるのですが、ターゲットを調べていくうちに、相手にどんどんハマっていってしまうという。これはもう、今「推し」がいる方にはたまらないというか、「そう、こういう感じ、この気持ち!」というところにとても共感できる作品だと思います。「推し」を知り、好きになり、完全にハマると、人は「その人に恥ずかしくない自分になりたい」と生き方まで変えてしまうことがありますよね。ここではそんな気持ちの流れが本当に美しい文章で綴られていて、大人にも深く刺さる作品だと思います。こちらを読んで気に入られた方は、ぜひ可穂さんのさらにズブズブな(笑)、他のディープな作品も読んでみていただけたらと思います。