脳の病気の影響で感情の抑制が困難に


高次脳機能障害で強い記憶障害が出たとすると、多くは新しいことが覚えられなくなります。例えば、今度いついつ何々しましょうっていうアポイントが覚えられなくなるんです。メモしても、メモしたことを忘れてしまったり、聞いたこと自体を忘れて何度も聞いてしまうとか、そういった症状が出てしまう人もいます。回復が期待される半年や1年で変わってくるかというと、変わってこないで固定化する場合もあるんです。そういうときにどうするかということですよね。もちろんまず、日常生活にも困ります。そういう病気になっていること自体を自分が理解できないかもしれない。入院したことも忘れてしまうこともあります。

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ーー高次脳機能障害になる病気にはどんなものがありますか。

田中:脳出血や脳梗塞、くも膜下出血などです。他にも、交通事故によって頭をぶつけると、「びまん性軸索損傷」と言って、やわらかい脳が硬い頭蓋骨の中で外力によって揺さぶられ、神経線維が広範囲に断裂し、多彩な症状が現れることがあります。ほかにも窒息・呼吸停止・心停止・一酸化炭素中毒などによる低酸素脳症、アルコール中毒による脳の萎縮等があります。高次脳機能障害の症状としては、注意が散漫になったり、同時に二つのことができなくなる「注意障害」、作業の段取りや計画が立てられなくなる「遂行機能障害」、感情や欲求が抑えられなくなったりこだわりが強くなってしまう「社会的行動障害」、言葉がうまく使えなくなる「失語症」、日常生活動作や道具の使用が困難になる「失行症」などがあります。

 

ーー事例を拝見すると感情のコントロールが難しくなるということも多いようですね。

田中:感情は脳で抑制しているので、それが難しくなることがあります。もちろん人によって様々ですが、元々怒りっぽい人がさらに怒りっぽくなってしまうこともあります。重度の場合、何の原因やきっかけもなく感情が乱れますが、多くの場合は、何らかのきっかけがあります。たとえばご家族が何気なく本人のミスを指摘した、病前のようにできると思っていくつも頼みごとをした等です。脳損傷後は脳がダメージをカバーしながらはたらくため、とても疲れやすいです。疲れていっぱいいっぱいになっていると、些細なことでも感情が爆発しやすくなってしまいます。対処としては、本人がいっぱいいっぱいにならないように環境や周りのかかわり方を工夫することです。生活環境をシンプルで分かりやすくしたり、本人が処理できる量や速度でお話したり、こまめな休憩をしてもらうようにして、ストレスを減らし、少ない抑制機能でも感情をコントロールできるようにします。